すべてはあの花のために⑥

 緊迫した空気が一気にぶち壊され、トウセイは目が点に。


「……翼、この子は本当に道明寺か?」

「え? はい。そうですけど……」


 トウセイはじっと、ニコニコ笑っている葵を睨み付けるように見ている。


「……あの二人から、あんたのような子供が産まれるのか? 世も末だな。私は恐ろしくて眠れそうにない」

「(まあ産まれてないけど)」

「はあ。何故そんなことを言う。翼、この子を巻き込んだのか? お前の我が儘に」

「お言葉ですが、わたしが巻き込んで欲しいと言ったのです。責める相手が間違っていますよ」

「……では何故、他人の家庭問題に首を突っ込んでくる。ハッキリ言って迷惑だ」

「そうですね。でもわたしは、大切な友達のためならなんだってする覚悟です。たとえそれで嫌われようと、彼らを救えるのならわたしだって容赦しません」


 葵がはっきり言い切ると、何故かトウセイは一瞬気が抜けたような顔に。


「……翼、この子は彼女じゃないのか」

「そうですね。まだ、違います」

「まだでも何でもなく、ただの友達です」


 ツバサの心に傷が入ったことに気づいたのは、トウセイだけだった。


「悪いが、話をするつもりも相手をするつもりもない。……今日は遅いから泊まっていきなさい。そしてこれ以上私たちの問題には首を突っ込まないでくれ」

「いいえ。わたしは引きません」


 部屋に戻ろうとするトウセイの前に、手を広げて立ちはだかる。


「迷惑だと言っただろう。あまりにもしつこいと警察を呼ぶぞ」

「どうぞご勝手に。それでもわたしは何度でも来ますよ? それなら一度さっさと相手をした方がいいと思いますけど?」

「……葵、頼むから挑発すんなって」


 挑発的な笑みを浮かべる葵に、流石のトウセイもちょっとぷっつん。


「舐められたものだな。道明寺の子にここまで言われようとは」

「もちろん、ただで勝負を挑んで欲しいと思ってはいません」

「何か? 君は私に勝とうとしているのか、剣道で」

「え? はい。そうですけど?」


 あっけらかんな様子の葵に、再びぷつん。


「怪我をしても、私は一切責任をとらんぞ」

「? ええ、大丈夫ですよ。だって恐らく怪我をするのはあなたの方です。心にね」


 とうとうトウセイの堪忍袋がブチンッと切れた。


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