すべてはあの花のために⑥

 時刻は22時。


「ツバサくん、今日もお父様はお仕事ですか? 日曜日なのに。それに……もうこんな時間」

「代わりに明日は休むらしい。いつも帰りは遅いかな。仕事終わってからもなんかしてるみたいだし」

「それは家でも?」

「言われてみれば、そういう時は大抵日を跨いでるかも。毎日のように、夜遅くまで仕事場に引き籠もってるよ」


「少しでも体、休めて欲しいんだけどな」と、ツバサが寂しそうに言った。


「そうですね。きちんと伝えましょう? そのことも。ツバサくんの思いを」

「……うん。ありがとう」


 そうこうしているうちに、ガチャリと玄関の扉が開く。


「……? 翼、お客様がいるのか」

「はい父さん。紹介します」

「初めまして九条様。わたし、ツバサくんと一緒に桜の生徒会をしています『あおい』と申します」


 葵は慣れたようにそう、ツバサの父に挨拶をする。


「……そうだったか。挨拶もそこそこに悪いが、私は忙しいからこれで失礼を」

「時に九条先生? 剣道がお強いと伺ったのですが」

「おい葵……!」

「……失礼だが、子供相手に無駄な時間を殺ぐつもりはないのでね。翼、付き合う相手は選べとあれほど」


 ツバサを窘めようとするトウセイの間に、葵はツバサを庇うようにして立ちはだかる。


「すみません九条先生。いいえ。トウセイ様。きちんとご挨拶していませんでした。わたしの名前は道明寺(、、、)葵と申します。……少し、あなたとお話をさせていただきたくお邪魔しました」

「――――」


 きちんと名乗ると、トウセイの顔が瞬時に険しくなった。


「……道明寺、だと」

「はい。そうですトウセイ様」

「馴れ馴れしく呼ばないでいただきたい」

「いいえトウセイ様。わたしは今日、『議員のあなた』にではなく、『ツバサくんのお父様のあなた』に、お話があってきたんです」

「……道明寺が、ここに一体何の用だ」


 完全に警戒をしているトウセイに、葵はにっこりと笑った。


「少々、手合わせをお願いしたいと思いまして」


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