すべてはあの花のために⑥

 トウセイが、静かにツバサの言葉を遮る。横目でトウセイを見ると、彼はどこかつらそうな顔をしていた。


「……ツバサくん」

「……んだよ」

「話してあげられなくて、ごめん」

「…………」

「でも、大丈夫だから」

「もう、わけわからねえ」


 玄関まで歩きながら、ツバサに小さく笑いかける。


「きっと、何もかも上手く収まるよ」

「……あのさ、もうちょっとちゃんと話して」

「でも君も、わたしに全部を話しているわけじゃないでしょう?」

「……!!」


 その言葉にツバサは驚きを隠せない。そんな様子を見ても、葵は笑っていた。


「いいよ。言わなくたって。それを、君は言えないんだろうから」

「……お前、知って……」

「あと、ちょっとお願いがあるんだけど」

「いや、話飛びすぎ」


 夕闇のせいか。葵の顔に影が差したような気がしたツバサは、一度そこで言葉を止める。


「お母様のこと。ヒナタくんのこと。……ちゃんと助けてあげられたら、わたしに時間をもらえないかな」

「は? どういうこと?」

「……ヒナタくんと、きちんと仲直りしたくて」

「……!? お前、日向と仲直りできてなかったのかよ」

「うん。本当に……残念だけど」


 葵の顔が、苦虫を噛み潰したように歪む。


「はあ。ちょっと耳貸せ」

「え?」


 そう言うや否や肩を抱き寄せたツバサが、葵に耳打ちしてくる。
 そのツバサの話が俄には信じがたくて、葵は声が出ない。


「大丈夫だよ。……だから、思う存分たくさん話してこい」


 ぽんと俯く葵の頭を撫でたツバサは、家のチャイムを鳴らした。


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