すべてはあの花のために⑥

 葵は、じっとトウセイを見つめた。


「……トウセイさん。賭けはわたしの勝ちです」

「……? ああ、ちゃんとわかっている。だから話も聞いてやっただろう」

「付け足すことは何もありませんか」

「……はあ。皆、俺の大事な家族だ」

「父さん……」

「あなたならきっと大臣になれます。いいえ、必ず選ばれるはずです。あなたなら」

「……どうして、君は……」

「行きますよ。二人のところに。ツバサくんも。覚悟はいいか」

「……あ、ああ……」


 切羽詰まっている葵とともに、道場を後にした。

 時刻は18時。三人は一度家に戻り、車でヒナタと母の家へと向かう。


「……なあ。なんでお前、そんなに知ってるんだよ」

「ん? 何が?」

「だから、なんで父さんがそんなこと思ってんのかとか、事件調べてんのとか」

「ああ、それは今朝知ったんだ。トウセイさんが新聞を読んでいたから」

「新聞? でもそれって普通じゃ……」

「それは古い日付のものだった。ちょうど、今から六年程前のね」

「え。それ、もしかしてハルナの事故の……」

「恐らくだけどね? だから、あーこの人すごく不器用なんだなって思ったんだ」

「それは俺も時々思う。目玉焼きに醤油と間違えて墨汁掛けてた時はどうしようかと」

「いや、それただの呆けじゃない? それか天然?」

「それだけじゃなくて、本を逆さまに読んでたときもあって。途中で気付くかなと思ったらページ普通に捲ってるし」

「それ、もしかしなくともツバサくんに突っ込んで欲しかったんじゃ……」


 二人して、後部座席から運転席へと視線を向ける。彼は照れくさそうにぷいっとそっぽを向いた。まさかこの人に、こんな可愛い一面があるとは。


「にしてもだ。どうしてお前、いろいろ知ってんだよ」

「ん? 他になんかあったっけ?」

「父さんが知りたかったこと。それを知っていると、お前は言っていたよな」

「…………」

「……なあ、何か知ってるなら教えてくれ。なんでお前は、知ってるんだよそんなこと。陽菜のことも知ってるんじゃないのか」

「ま、まさか。初めて名前を知ったよ」

「じゃあなんで知ってんだよ」

「それは、……わたしだからとしか言いようが」

「はあ? もうちょっとわかりやすく」

「着いたぞ」


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