すべてはあの花のために⑥
そうだ! 鍋パをしよう!
チャイムを鳴らしても、中からは何も返事が返ってこなかった。
「い、いないってことは……」
「それは多分ないと思うけど」
声を掛けるが反応はなし。部屋の灯りは消え、カーテンからも一切光は漏れていない。
「……っ、か、鍵とか持ってないですか?!」
「ない」
「同じく」
――不味い。多分もう、限界を超えている。
「……ちょっと! そこのポストとか! 植木鉢の中とかに鍵はないんですか!」
葵が『探すんだー!』と手をビシッと伸ばした時――ガンッ!! と後頭部を強打。背後の扉がいきなり開いたのだ。
「……い、ったー……」
「ちょっと。近所迷惑なんですけど」
「……あ」
振り返ったそこには、オレンジ色の髪の彼。制服姿しか殆ど見ることはなかったから、気付くことができなかったのだろう。彼が、痩せ細っていることに。
「日向。ちょっと話があるから入れて欲しい」
「あれ。父さんだ。久し振り」
「母さんとお前と、話したいことあるんだけど」
「え。ツバサ? 何。オカマやめたの」
「いいから今は家に入れ」
「オレらは話すことなんか何もないけど」
「……!! っ、ひ」
実の父親と兄にさえ完全な拒絶を示す。
慌てて葵も説得を試みようとしたけれど、彼の名前を呼ぶことはできなかった。鋭い視線が、葵の言葉を止めたから。
「お前はなくてもこっちはある」
「だから、オレらは何もないんだって。帰って」
「陽菜のことで話があるんだ」
「……何。勝手に喧嘩して、勝手に別居したいって言ったくせに。今更何言ってるの」
「だからその理由を話しに」
「今更。そんなのもうどうだっていいし。オレらのことは放っておいてよ」
そう言って彼が閉めようとする扉を、ガンッと足で止める。
お互い何も言わない。視線だって合わさない。それがどれだけ続いたか。二人の緊迫した様子を、ツバサとトウセイも見守っている。
先に痺れを切らしたのは葵の方。すっと息を吸い、バッと顔を上げた。