すべてはあの花のために⑥

「晩ご飯を一緒に食べましょう!」

「「………………は?」」


 案の定、ツバサとトウセイは目が点に。


「結構です。お帰りください」

「いやー! 待って待って! 間違えた! ちょっとお腹空いてたから!」

「すごい迷惑なんだけど。なに人ん家の貴重な食料漁ろうとしてんの。うわーやっぱり最低だね」

「だから間違ったんだって! えーっと、えーっと……」

「本気だったんでしょ。次出てこないじゃん」

「待って待って! …………そうだ! 鍋パをしよう!」

「はい却下ー。どうぞおかえりくださーい。交番はあっちです」

「うぎゃー! 待って! もう一回!! もう一回だけチャンスをぉおお!」


 そんな遣り取りにトウセイは首を傾げていたけれど「こいつら本当に喧嘩したままなのかよ」と、ツバサはいつも以上に息ぴったりな気がしてならなかった。


「ひっ、……君も、話さないといけないこと。あるでしょう?」


 葵がそう言うと、彼は思い切り睨み付けてくる。


「は? そんなのないし。さっさと帰って。通報するよマジで」

「いいよ。でもまた来る。何回でも」

「いや、そうしたらあんたほんとに捕まるよ」

「それぐらい平気だ。君をわたしは助けに来たんだから」


 彼は冷たい視線で葵を見下ろした。


「……何。ツバサになんか聞いたわけ? へえ。プライバシーの侵害なんだけど」

「別にいいよ。訴えるなら訴えればいい」


 葵だってただじゃ折れない。冷たい視線を、強い視線で見つめ返す。


「……もう、大丈夫だ。君一人が頑張らなくていいんだよ」

「は? 何言ってるの」

「ちゃんと話そう? きっと。ちゃんと綺麗に収まるから」

「……意味わかんないんだけど」


 少しだけ、動揺が見え隠れする。ツバサとトウセイは、葵が話す言葉にただ眉を顰めていた。


「はっきり言うね。……君がしていることは間違いだ」

「――ッ!」


 葵はそっと、彼の手を取ろうと手を伸ばす。


「――触んな!」


 大きな声に完全な拒絶。ツバサとトウセイは、彼から発せられたそれに心底驚いているようだった。


「……帰れよ」

「いやだ」

「帰れ」

「いいや。帰らない」

「帰れって言ってるだろ!」

「帰らないって言ってるだろ! こんの不器用男がああッ!!」


 ――ボコッ!! と一発。鳩尾に拳を入れた葵は、怯んだ彼を肩に担ぎ上げる。


「さあみなさん? 行きますよ~」

「……っ、は、なせ……ッ!」


 ツバサとトウセイは、静かに視線を交わしました。『こいつにだけは盾突けないな』と。


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