すべてはあの花のために⑥

 その間肩に担がれた彼は、暴れたり容赦無しに葵を殴ったり蹴ったりしていた。


「うん。いいよ。それで君の気が済むなら。わたしはいくらでも殴られてあげるから」


「だから今は、話をしよう?」と、そう言う葵にとうとう降参した。


「……下ろしてくんない」

「お姫様抱っことどっちがいい?」


 その選択には無言を返し、黙って葵の肩に担がれていた。


「……お母様は? まだお話しできる?」

「……何。知ってんのあんた」

「答えて」

「……多分、無理」


 どうなっているのかと、動揺を隠せない二人は先程と同じように視線を交わしていた。


「じゃあ、まずは君からだね」

「は? だから何が」

「取り敢えず、お母様がいないところはどこかな」

「……自分の部屋にいるから。リビングなら大丈夫」


 それはどっちだ!? とキョロキョロしていると、ツバサが扉を開けて案内してくれた。


「……離してくんない?」

「いいじゃんこのままで」


 ヒナタをソファーへ下ろした葵はというと、彼の横にぴったりくっついて座って、腕まで組んでいた。喧嘩中だとは思えない二人にツバサはむっとしながら、テーブルの上に置いてある灰皿へと視線を落とす。


「……灰皿?」

「はあ。取り敢えずそっちから話せば?」


 ヒナタは、そんな葵を諦めて話を振った。


「日向。俺、女の恰好やめたんだ」

「うん。見たらわかるけど」

「ずっと、やめられなかったのに」

「そうだね。父さんわかってくれたんだ。よかったね」

「やめたのは、このままじゃ変わらないと思ったからだ」

「ふーん」

「でも、それだけが理由で女の恰好してたわけじゃない」

「知ってるよ。どうせオレのためでしょ?」

「え……?」

「そんなこと、最初からわかってるし」


 ため息交じりに答えるヒナタに、ツバサはポリポリと頬を掻いた。


「やめられたのは、俺の背中押してくれたのは葵だ。だから父さんが何してたかもわかったし、誤解も解けた」

「……そ。それはよかったね」

「でも、俺はお前のこともずっと助けてやりたかった。母さんにずっと陽菜って呼ばれてたお前を、何かしてやりたかった」

「……だからわかってるって」

「でも、何かしてやるだけじゃもう嫌なんだ」

「…………」

「助けるよお前のこと。母さんにちゃんと呼んでもらおう? それからまた、みんなで一緒に暮らそう」


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