すべてはあの花のために⑥

「はるちゃ~ん? どこ~?」


 入ってきたのは、色白を優に越え青白い肌色をした、愛らしい女性。ツバサとヒナタの母でありトウセイの妻『若葉(わかば)』だ。
 そして、トウセイとツバサの姿を確認するなり、ワカバの空気が変わる。


「……とうせい。さん……?」

「……ああ。若葉、久し振りだ」


 その時、ワカバが大きな音を立てて扉を閉めた。


「……やばいッ。みんな速く逃げ――」

「はは……。……ははっ。ははははははっははははははははー!!」


 ワカバは、手近にあったものを掴んではこちらへ投げ付け、狂ったように声を上げる。


「あははははぁー!! あ~!! あはははあー!!」


 トウセイとツバサは机の下や、ソファーの後ろに身を潜めたが、ヒナタとその横に今もピタリとくっついている葵は、ソファーからピクリとも動かない。


「何をしている! お前らも早く隠れなさい!」

「だってさ。あんたもさっさと逃げれば?」

「君が逃げないならわたしだって逃げないよ」

「そのうち包丁が飛んでくるよ」

「だったら君の盾になろう」


 それから、一体何度体に当たっただろう。いろんなものが飛んできて、ヒナタも庇った葵は怪我だらけだ。


「だから逃げろって言ったのに」

「……大丈夫だよ。君の、せいじゃないから」

「何言ってんの……」


 何が当たったのか、頭を押さえながらはっきりと伝える。


「君が悪いことなんて、一つもないんだから」

「……何。ツバサに何か聞いたの」

「何も。聞いていないよ」

「……っ、だったらなんで――」


 葵はヒナタに飛んできたまな板を、頭を包み込むようにして守る。


「っ、……待ってて」


 ふわふわの髪に顔を埋めて、ぎゅっと抱き締める。


「もう、隠すのは終わりにしよう。……でも、きっと大丈夫。すぐによくなるよ」

「……っ、だから。何で知っ」


 彼の口に指を当て、葵はふわりと笑う。


「言いたいことがあるの。だから、あとでわたしに時間をくれたら嬉しい」


 そう言って、葵はヒナタから離れ、暴れているワカバのところへ歩いて行く。


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