すべてはあの花のために⑥

 不安で揺れる彼の瞳が上がってくる。まるで過去の自分を見ているようで、葵は小さく笑った。


「わたしも最初は自分が犠牲になればいいって思ってた。それでみんなが幸せならって。そう思ってた。……でもね? それってただの自己満足なんだよ。君を好きな周りの人たちは、一つも幸せなんかじゃないんだ」

「…………」

「君の本当の幸せは何? わかる?」

「……そんなの。みんなでまた、一緒に暮らすこと以外ないし」


 ヒナタの言葉に、トウセイとツバサが眉尻を下げて微笑んだ。


「君が隠してたのは、お母様がこんなになってるのを心配掛けたくなかったから。そうでしょう?」

「…………」

「何でも一人で抱え込んだらダメだよ。そんな話を聞いてくれる人が、君にはたくさんいるんだから」

「…………」


 葵は、そっとオレンジ色の頭を抱き締めた。


「もう、我慢しなくていいからね。よく頑張ったね。お疲れ様」

「…………!」

「たくさん君を呼んでもらおう? お母様もきっとよくなるよ。それまで、もうちょっと辛抱だ」

「……ん」

「みんなが心配しないようにしてたんだよね。ほんと、やっぱり君が一番の努力家さんだ」

「まあそれほどでもある」

「え。調子戻ってる」

「オレは最初からおかしくなんかなってないし」


 そんなことを言うヒナタに、葵は嬉しくなって頬が緩んだ。


「そっか。それはよかった」


 最後にぽんぽんと頭を撫でたあと、もう一度ワカバの元へ。


「ワカバさん。もう大丈夫ですよ。怖がらないで?」

「あおい、ちゃん……」

「……ワカバさん。わたし、今日は彼とお友達になりたくてきたんです」

「……か、れ……?」

「はい。でも、やっぱり欲が出ちゃうみたいで。できればワカバさんとも仲良くなりたいなと思うんですけど、ダメですか?」

「……だめじゃ、ない」


 そう言ったワカバに、葵は抱きついた。


「すっごく嬉しいです……!」

「……うれ、しい……?」

「はい! あと、やっぱりハルナさんともお友達になりたいんですけど、いいでしょうか」

「……?」


 ワカバは首を傾げながらまた葵の首に手を伸ばそうとするが、もうその手は止めた。


「いいえワカバさん。彼女のお墓に、また行ってお話ししたいんです」

「お、はか。……はるちゃんっ」

「ハルナさんは一生懸命生きました。それを、ちゃんと思い出してあげましょう……?」

「……うん。……うんっ」

「それと。……あなたにもう一度、彼を呼んであげて欲しいんです」


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