すべてはあの花のために⑥

 さささーっとヒナタのところへ行った葵は、彼の背中を押してワカバの前へと連れてくる。


「あなたが行ってしまう前に。彼の名を、呼んであげて欲しいんです」

「……?」

「呼べませんか? いいえ。あなたはちゃんと覚えてますよね?」


 葵はひょこっとヒナタの後ろから顔を出した。


「だって、さっき言ってたじゃないですか。『わたしの大好きな息子だ』って」

「むすこ……」


 ワカバはそっと、ヒナタに手を伸ばす。


「…………ひ、なた……」

「……!」

「はいっ。それじゃあもう一回」

「ひな、ちゃん」

「っ、かあさ……」

「もういっちょ!」

「ひなちゃん……!」

「っ、かあさん」

「よくできましたあー!」


 ヒナタの背中をまたとんっと突き飛ばし、ワカバの胸の中に収める。むぎゅうっと、ワカバはヒナタを抱き締め、彼もそっと、彼女へと腕を伸ばす。


「ひなちゃん。……ひなちゃんひなちゃん」

「うん。……わかったから」

「ごめんっ。ごめんねっ」

「うん。……だいじょうぶだよ」

「ごめんっ。ひなちゃん……」

「もうじゅうぶん。……だから母さんは、早く帰ってきて。待ってるから。みんなで」

「うんっ。超特急だあ……!」

「ははっ。普通で頼むわ」


 そんな二人の様子に、トウセイもツバサも、目元に涙を浮かべていた。


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