すべてはあの花のために⑥

あまりにもバカらしくって


「……ハルナには? 会ったの?」

「……昨日、ツバサくんに連れて行ってもらった」

「そ。それはよかった」


 それから二人は、何も話さずただ片付けに専念した。

 時刻は23時半。片付けも終盤になった頃、ようやくヒナタが口を開く。


「……約束。いいの?」

「……ううん」

「話さないの?」

「……話す、けど」


 表情の暗い葵に、ヒナタはため息をつく。


「オレは別に、あんたにそんな顔して欲しいわけじゃなかったんだけど」

「……ごめん」

「助けてくれたあんたになら、話してやってもいいって思ったんだけど」


 それでも話さない葵を見て、ヒナタはもう一度ため息をついたあと、意を決して話す。


「『オレには近づかないでくれる』」

「……!」

「体育祭の前。そう言ったの覚えてる?」

「……お、おぼえてる」

「そ。……まあこんなこと、知られたくないでしょ。薬やってる母親隠してるし。オレだって捕まえられるべきだし」

「……大丈夫だよ」

「は?」


 何を根拠に――と。ヒナタは怪訝に顔を歪める。


「言ってないこと、あるでしょう?」

「……!」

「君がお母さんを止められなかったのは、危ない目に遭わされたんじゃない……?」

「……なんで」

「さっきの暴れようからして、そうじゃないかと思ったんだ。薬をやめさせようとした時。写真を見たり思い出を感じてしまった時。彼女はそういう時に暴れていたのかなって。お母様は相当依存してた。君が止められないのも無理はないし、誰かに言えないのだってしょうがなかった」

「……もっと、オレが支えてやれてたら、何かが違ったのに」

「否定はしないよ。でも肯定もしない。そんなこと、なってみないとわからない。……でも君は、よく一人で頑張ったね。お疲れ様」


 ぽんぽんと、葵はヒナタの頭を撫でる。


「……ふふ。キサちゃん奪還の時とは反対だね」

「そんなこともあったね」


 ヒナタは俯いたまま、ただ無言で撫でられていた。最後にそっと、やさしく撫で付ける。


「……約束。今、いいかな」

「どうぞ」


 そっと手を下ろして、葵は真っ直ぐにヒナタを見つめた。


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