すべてはあの花のために⑥

　ぐうと少しばかり黙り込んだ彼は、諦めたように「ちょっとまって」と。それでも了承してくれたことが嬉しくて、彼が落ち着くまで待ってあげた。


「……ん。ごめん。なに……？」


　まだちょっと恥ずかしいのか、顔が赤くなってる気がしなくもないけれど。


「ありがとうっ！」


　葵はふわりと笑って、彼の頭をぎゅっと抱き締めた。


「ごめんね。あんなこと、言わせてしまって」

「……ん」


　この感謝の気持ちが、少しでも伝わればいいなと思いながら。


「……くるしい……？」

「……あ、ある意味」


　少し唸るような声が聞こえて思わず尋ねると、聞き覚えのある返答に思わず腕の力を緩めた。そこにはまだ、真っ赤なヒナタが。


「ちょ。……あんま見ないで」

「（何この人。めっちゃ可愛いんだけど）」


　と思うけれど、口に出した途端悪魔と化しそうだったので、今は取り敢えずにっこり笑っておでこ同士をくっつけた。


「ヒナタくんのね、言う通りなんだ。わたし、苦しいんだ」

「……っ、え？」

「つらい。悲しい。……話したい。話したくてしょうがない」

「っ、だったら……」

「でも、言えないんだ。……誰も、傷ついて欲しくないから」

「……犠牲じゃ、幸せなんてこないんでしょ？」

「え？」

「あんた、さっきそう言ってた。でも、あんたは犠牲になろうとしてる」

「でもこれは、犠牲って言うか。そうしないとわたしの大切な人たちが」

「違う方法は？　何かない？　本当にあんたがそうしないといけない？」

「ひなたくん……」

「助けたい。あんたを。絶対」