すべてはあの花のために⑥
ヒナタが、葵の手を握り締めてくる。まだ、手は冷たかった。
「あんたの助けになる。絶対。オレが何とかする」
「……うん。ありがとう」
「オレだけじゃない。みんなだって手伝ってくれる。あんたの味方は、いっぱいいるんだから」
「……っ、うん。そうだね」
「何してあげたらいい? 警察いる? オレが父さん使おうか?」
「いやいや。お父さん物みたいに言いなさんな……」
「だったら何する? あんたがあの家で窮屈してるなら、オレが飼ってあげるよ?」
「いやいや、わたしペットみたいになってるけど……」
「っ、だったら何してあげたらいいの。どうしたらあんたは苦しくなくなるの。つらくなくなるの。悲しく、なくなるんだよ……っ」
「……その気持ちだけで十分だよ」
「いやだ。絶対に飼う。あ、間違えた。変える」
「(……飼う気満々じゃん)」
「ねえ、何してあげたらいい? 誰が傷つくの。誰が危ないの。その人たちのこと守ってあげられたら安心する?」
「……嬉しい」
「は? 正解? 何、嬉しいって」
「……そんなに必死になってくれることが」
「当たり前じゃん」
「そっか。当たり前か。……うん。やっぱり嬉しい」
へにゃって、笑う葵だけれど、ヒナタの眉間には皺が寄ったまま。
「あのね、ひなたくん。わたしがみんなの前で泣かなかったのは、みんなに心配掛けたくなかったからなの。だからみんなの前では笑っていようって。……苦しくても、つらくても、悲しくても。だから、泣かないって決めてたの」
「……今も?」
「うーん。あんまり泣くのもどうかと思うからなー……」
「……そんなに、苦しいんだ」
「でも、わたしが笑ってないって、ちゃんと笑えてないって気づいちゃう人がお友達の中でいるみたいだから。わたしが泣かないと、逆に心配しちゃう人がいるみたいだから」
「…………」
「別にヒナタくんって言ってないよ? いろんな人に言われちゃったし」
「……そ」
なんだかちょっと落ち込んじゃったけど。……でも一番は、君だから。
「だから、ちゃんと笑えるように。みんなの前でもちょっと泣くかもね」
「……ーーー、前だけでいいよ」
「ん? 何か言った?」
「オレの前だけでいいって言った」
「……!」
「オレがあんたの弱音聞いてあげる。だから、みんなの前では笑ってて」
「ひなたくん……」
「一緒に抱えてあげる。だから、何でも言って。絶対に助けるから」