すべてはあの花のために⑥
「……だいじょうぶだよ」
「……? 何が?」
「お家には入れてあげられないけど。いつか、日記は見せたいって思ってるから」
「え」
「……わたしも、ただじゃ終わらせない」
少し張り詰めた葵の空気に、ヒナタは首を傾げる。
「お父様たちとはお話しさせてあげられないけど、言えることなら二人のこと、話してあげられるよ?」
「……じゃあ、お母さんってどんな人?」
「わたしのこと嫌ってる」
「………………」
「でも、『わたし』のことはすごい好き」
「……お父さんは?」
「お父様はいい人だと思ってた」
「………………」
「でもお金しか考えてなかった」
「……どういう人?」
「道明寺の現当主。道明寺グループの総帥」
「……仕事って、どんなことしてんの?」
「ぶっ。……道明寺は、物流とか。薬品とか。……造船とかを。してる」
「……ふーん」
確かに、道明寺グループはそっち関係もしている。どちらかというと、ホテル経営や金融機関で有名だ。
にもかかわらず葵は、それが仕事なんだと。敢えてそう言ってきたことに関して、少し引っ掛かりを覚えた。
「……いっぱい。話しちゃった……」
「無理に話したの?」
「ううん。大丈夫だよ」
「……またさ。話そう? カードわかったら」
「わかっちゃったら。もしかしたらわたしのこと。嫌いになるかも」
「こら。だーかーら。なんないんだって。何回言えばわかるの」
「い、……いひゃい」
「また話そ? いい?」
「……断らせないくせに」
「下僕の分際で断ろうとか思う方がおかしいよね」
「……すみません」
「(納得しちゃったよこの人)」
「話したく、ないけど。……でも、信じてるから、話すよ」
「……うん。ありがと」
それから、朝日が昇るまで二人くっついたまま、あったかい時間を過ごした。
ヒナタからたくさんの体温を分けてもらった葵は、もう冷たくなんてなくて、十分あったかくなっていた。