すべてはあの花のために⑥

sideミノル


「来た、か……」


 来られないかもしれないと、そう言っていたけれど。


「はい。どうぞ」


 君ならきっと大丈夫だって、そう信じていたよ。


「お疲れ様。……よく、頑張ってくれたね」


 本当に。……ほんとうによく。頑張った。


「……っ、りじちょー……」


 泣き出す寸前の彼女を、抱き締めてあげる。


「ほ、ほうこく。っ、きましたあ……」


 小さいその花は、今にも枯れてしまいそうなほど。とても冷たかった。


 ――――――…………
 ――――……


「つ。つばさくんも。ひなたくんも。もう。だいじょうぶですううぅ~……」

「そっかそっか。よかったよかった」


 ぽんぽんと、彼女の背中を撫でてあげる。


「つらかったね。よく頑張った」

「っ、うぅぅ~……」

「何か飲む? ていうかどうして私服なの?」

「うぅぅ~……」

「ありゃ。こりゃもう少し時間が掛かりそうだ」


 しばらく彼女が落ち着くまでは、背中を摩ってあげた。


「つばさくん。オカマじゃなくなりました」

「ははっ。あれはあれでよかったけどね~」

「ひなたくんも。ちゃんとお母様に、名前を呼んでもらえてました」

「……そっか。本当によかった。君も呼んであげたいけど、わからないからね……」


 彼女のことを調べていないわけではない。それでも、どうやっても阻んでくるのは道明寺だった。


「だいじょうぶです。きっと誰かが。呼んでくれるから」

「……うん。そうだね」


 そのあと理事長に制服を借りた葵は、部屋を出る前に気合いを入れ直していた。


「理事長。わたしの『願い』を、お願いします」

「……ああ。それが『約束』だ」


 扉を開けて、葵は彼に深々と頭を下げる。


「……っ、ありがとう。ございましたっ……!」

「……こちらこそ。ありがとう、葵ちゃん」


 顔を上げた葵の顔は、今までで一番綺麗だった。


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