すべてはあの花のために⑥

「……これで、やっと……」


 例の如く、金庫の中から小さめの木箱を取り出す。



「よく頑張ったね。ハルちゃんのお兄ちゃん」


 彼がそこから取り出したのは――菖蒲の花。



「……君も、名前を呼んでもらえて。よかったよ」


 最後に助け出されたのは――……ひなげしの花。

 それを、大きな木の箱に移し替えてやった。



 最後に救い出された心やさしい花は、アヤメとヒナゲシ。

 冷たくなった蕾はもう、赤に乗っ取られようとしている。
 蕾と赤が混ざってしまえば、真っ黒な花が咲いてしまう。


 薔薇、菊、ツツジ、百合。
 蘭、ナデシコ、アヤメ、アネモネ、アサガオ、サクラソウ、ヒナゲシ、牡丹。

 全ての花が今、蕾のまま枯れようとしている、冷たくなってしまった【何かの花】のまわりに揃った。


 オカマと悪魔が、最後の部屋を――埋めた。





「……これで、準備は整った」


 理事長は、静かにその箱を閉じた。



「時間は確かにない。……でも、負けない」


 理事長はぐっと、スマホを握り締める。





「――お前などに渡してなるものか!」




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