すべてはあの花のために⑥
「そのことなんだけど」
「ん? 何。なんかあったの?」
「……母さん、薬物反応は出なかったんだ」
そう言うツバサに、ヒナタは眉間に皺を寄せた。
「……何。じゃああの薬はなんだったの」
「それは今調査中。確かに依存性が強いけど、母さんもう強くなったし。お前のこと呼べたから、今頑張ってリハビリしてる」
「……そう。じゃあ、薬物に指定されてないのに、その薬のせいで母さんはおかしくなったんだね」
「最初に調べた時は、至って普通の薬だって言われたんだ」
「え? どういうことそれ」
「あの暴れようは確かに異常だった。普通に危険なものだと思ったから、今もっとちゃんとしたところで詳しく調べてもらってる」
「……何。その薬。わけわかんないんだけど」
「母さんがちゃんと話せるようになったら詳細を聞くつもりだけど。……お前なんか知ってる?」
「……いや。ある日突然吸ってたからヤバいと思った記憶しか……」
「そうか……」
深刻な話に、生徒会室の空気が徐々に重くなっていく。
「(わかばさん……)」
葵は、両膝の上でぎゅうっと指先を握り込む。
「(きっと大丈夫。きっとすぐ、よくなります)」
だって、あなたはちゃんと打ち勝てた。自分の、弱い部分に。
「(トウセイさん。必ずワカバさんを支えてあげてください)」
大好き過ぎたからこそ起こした過ちを、今からやり直していこう。
「(……っ、そして必ず。必ず調べて。そして――……)」
葵の手にそっと、誰かの手が添えられた。
「(ひなたくん……)」
横に座っているヒナタの温かい手が、葵の冷たい手に触れていた。ちらりと横を見るけど、彼はそっぽを向いたまま。
「(……うん。がんばる。がんばるよ)」
スマホに何かを入力していたみたいで、その画面を見せてくれた。
〈信じて〉
それが嬉しくて頷こうとしたら、彼が画面をスライドさせて。
〈じゃないと何カップか大公開だから〉
「!?!? ……っ、ふっざけんなあー……!?」
「うるさー」
そのおかげでもあって、重い空気は吹き飛んでいったけれども。