すべてはあの花のために⑥
「(こいつが男女のそういうことが嫌いなのって、そっから来てんのか……)」
ツバサは一人、思案顔になるけど、それが何を考えてるのかわかったアカネとアキラも、眉を寄せていた。
「アオイちゃん。だから好きがわからないっていうのも、みんなに言える?」
そんなことを言ったカナデにみんなは驚くけど、葵はこくりと頷く。
「……だから、わたしが愛された記憶ってそんなになくって。本当の両親も、最初はよかったけど、わたしが成長していく度に崩れていったの。拾ってくれた二人も、とっても仲が良くて、わたしもすごくよくしてもらって。旦那さんにはこれ以上ないくらい強くしてもらったし。奥さんからは常識とか。そんなこといっぱい教えてもらったの」
みんなは一斉に思いました。その人が原因かと。
「でも、そんな二人も結局二人とも浮気してた。だから、好きって気持ちがよくわかんなかったの。……異常に小動物とか、小さい子供とかを可愛がるのは、それが原因だと、思う」
みんなは再び思いました。思うじゃなくてそうだよと。
「(でも、アオイちゃんは……)」
「(あっくんが……)」
「(好きなんだろ……?)」
みんなも同じことを思ったのか、首を傾げている。
「あ、の。……なんでアキラくんが好きなのかっていうのは。カード。わかって欲しいの」
みんなは弾かれるように葵へ視線を向けた。
「い。言え、なくて。ごめんなさい。これが、限界だから……」
「大丈夫。ちゃんとわかるから」
ヒナタが顔を覗き込んでそう言ってくれるので、葵も小さく頷いた。
「……葵。道明寺からは出られないのか?」
「え……?」
「そうだな。オレも、そんな最低な家なら出ちまえと思うけど」
「あっちゃんはお金じゃないぞ! 大事な友達だ!」
「……うん。ありがと」
葵は苦笑いしか、できなかった。
「……言わないの?」
「……あんまり、言いたくないんだけど」
「でも」と、意を決して葵は言う。
「わ。……わたしが家を出たら。言っちゃいけないこと話しちゃったりしちゃったら。……わたしの、大切な人たちが、危なくなるの。わたしの、大切な人たちが、傷ついちゃうの」
「これ以上はっ。ごめんなさいっ……」と、葵は小さくなる。
「仮面を着けてたのも、迎えが来てたのも、それが原因でよかったよね?」
付け足してくれたヒナタの言葉に、葵は頷く。
葵は俯いてたから見えていなかったけれど、ヒナタは目を見開いているみんなを見渡した。
「(……ま、ここまでよく言えたこと褒めてあげたいよ)」
ちゃんと、葵からの『危険信号』がみんなに伝わった。
「(こいつの大切な人なんて、話聞いたらすぐわかる)」
――答えは自分たち。そして、拾ってくれた二人の夫婦。それを、葵は守ろうとしている。
「(こいつは、隠してるつもりかもね。でも遠回しに『危険だ』って頑張って教えてくれてる)」
それだけ大きな一歩を踏み出してくれたんだ。