すべてはあの花のために⑥
side……
真夜中。
「……? 誰、あんた」
目の前のそいつは、何も口にしない。
「……ここ、どこ」
誰も、何も、答えてくれない。
「……っ、ねえ。なんでさっきから何も話さないんだよ」
帰ってくるのは沈黙だけ。
「っ、くそ」
自分の声だけが、やけに車の中に響いていた。
そのうち二人を乗せた車は、どこの場所かもわからないようなところへと止まる。
「は? 降りるの?」
小さく頷くそいつの後をついて行く。
「……どこ、ここ」
「…………」
「……何。喋らんないのあんた」
「…………」
静かに足を止めた目の前の奴が、そっと胸に手を当ててきたあと、何故か頭を撫でてくる。
その手が、あまりにも温かくて、熱い何かが、胸の奥から込み上げてくる。
「……っ、なに」
「……行きなさい」
「……!」
喋ったかと思ったら、思い切り睨んでくるし。
「今自分が行くべきだと思うところへ。……――行きなさい」
さっさと車に乗り込んで、去って行くし。
「……は?」
こんな真っ暗の中。誰かもわからないような奴に置いて行かれたんですけど。
「……行くべき、ところ……」
ここがどこかもわからないのに、そんなのどうやって……。
「……あ、そこ……」
何故かなんて、そんなものわからない。
「……行かないと」
そうして一歩、また一歩と、足が勝手に動く。
「……っ、いか、ないとっ……!」
次第にそれが速くなる。勝手に足が速く速くと急いた。
「わかんないのに。……全然。わかんないのに……」
どこか心に残る欠片が、ずっと訴え続けていた。