すべてはあの花のために⑥
まず一つ目は、必ずSクラスで卒業すること。
傾きかけている家を支えるためということももちろんある。でもそれとは別に、家は桜をつけたいのだ。
「(それをわたしはしたくないから、Sクラスにはなりたくなかった)」
でもそれを拒否しようものなら、Sクラスで卒業できなければ、葵にとって大切な人に危害が及んでしまう。
二つ目は、生徒会の仕事をきちんと熟すこと。
一つ目にも繋がっているけれど、家のために葵は桜をSで卒業しなければいけないから、結局のところそれを確保できるならばこれに辿り着いてしまった。
「(でも、そのせいでみんなと仲良くなってしまって。みんなが危険な目に遭うかもしれない)」
三つ目は、海棠実の願いを叶えること。
初めてできた友達のために、彼らが抱えている憂いを晴らして欲しいと言われれば、なんだってできると思えた。
「(まさかそれが、わたしにとってもこれ以上ない気休めだったなんて、思わなかったけど……)」
お礼なんて言われる資格はないのに、いつの間にかみんなが、葵の味方になってくれていた。
四つ目は、必ず帰ってくること。
できないこともあった。だからシントに手伝ってもらっていたこともある。生徒会の仕事の一環だと言えば、家は納得してくれてはいたが。
「(帰ってくることは、『赤』への報告のため。日記を必ず書かないと、赤が勝手に出てきたり、時間が削られる恐れがあった)」
それをシントは危惧していたのだ。他にも赤はアザミたちと話をしていたみたいだけど。
「(そして。もう一つは……)」
最後の一つは、無理をし過ぎないこと。
「(そんなのもう。無理に決まってる)」
葵は、自分の真っ白な手をぎゅっと握る。
「(無理だ。無理無理。だって、みんなが大切すぎる。大好きすぎるんだっ)」
キサの奪還の際、チカゼやキク、理事長から話を聞いて、頭を使い過ぎた。
アキラを止めたくて、シントを動かしてあげたくて、必死に動き過ぎた。
アカネのことを、彼の未来の可能性を広げてあげたくて、体を張り過ぎた。
カナデの家の人たちとの歪みを直してあげたくて、一肌脱ぎ過ぎた。
チカゼの寂しさを、本当のあった事実をわかって欲しくて、支え過ぎた。
オウリの声を出してあげるために、彼の母親の心に、必死に呼びかけ過ぎた。
ツバサの思いを、不器用なお父さんにわかって欲しくて背中を押し過ぎた。
ヒナタの名前をもう一度お母さんに呼んでもらいたくて、死ぬ寸前まで頑張り過ぎた。