すべてはあの花のために⑥

「(別に、わたしがしたくてしたことだもん。全然痛くも痒くもない)」


 でも、自分が無理をする以外に、無理をしなければいけなくなったことがある。


「(あれからは、何もしてこないけど……)」


 体育祭に初めて現れ、文化祭に乗じてツバサを閉じ込めた謎の男。


「(それに……)」


 クリスマスパーティー。
 レンを消したのは自分だと、彼は言っていたけれど……。


「(そんなことありえない。信じてるよ。大丈夫だ)」


 どんな理由があって、そんなことをしたのかはわからないけれど、彼を信じるだけだ。


「(……無理、し過ぎちゃったかな)」


 首を触ったって、もう温かいとすら感じない。


「(……海に入った時みたいだ)」


 そうだろう。だって『赤』が産まれた場所なのだから。



「葵ちゃん。この一年、楽しかった?」

「……はい。これ以上ないほど、幸せでした」


 キクも、みんなに交ざっていった。


「……理事長。きっと卒業式には、出られないと思います」

「葵ちゃん……」

「きっと赤はそんなことしないと思うし。……だからその前に、わたしの願いを叶えてください」

「……うん。約束だからね」


 二人でみんなを遠くから眺める。とても楽しそうなみんなの笑顔を、絶対に守りたいと思った。


「わたしにとってはみんなが、生徒会が、家族のようなものでした」

「……そっか」

「とてもあたたかくって、やさしくて。でも、ちゃんと怒ってもくれて。本当に、みんなとお友達にしようって、よく思いましたね。危険だって思わなかったんですか?」

「……これはね、賭けだったんだ」


 語ってくれたのは、理事長の思い。


「あの子たちなら、絶対に君を助けてくれるんじゃないかと思った」

「……でも、わたしはみんなに助けてもらう資格なんてないです」

「ううん。そんなことないよ? ぼくは『葵ちゃん』を助けてあげられるのは、『みんなだけ』だと思ってる」

「……そんなこと、絶対にないですよ」

「大丈夫だよ。みんなは君を嫌いになんてならない。本当に君のことが大好きなんだ。信じてあげて? もちろんぼくも、キクもだよ」

「……はは。嬉しいですね。そう言ってもらえれば」

「……足掻くんでしょう?」

「はい。少しなら時間を延ばす方法は思いつきましたが、まあその前に“混じってしまえば”終わりなので」

「大丈夫だ。きっと呼ぶよ。君の名を」

「……もし、わたしが『黒い花』を咲かしてしまったら」

「っ、葵ちゃん」

「もしもですよ? ……その時は、構わずわたしの『願い』を叶えてください」

「……約束だと、わかっているけど。それは絶対にしたくない。そうならないようにするよ、必ず」

「……はい。ありがとうございます。理事長」


 それからあっという間にパーティーが終わり、片付けをしているとツバサに呼ばれたので、少し席を外した。


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