すべてはあの花のために⑥
sideツバサ
「どうしたのツバサくん」
二人して生徒会室へ来たあと、並んでソファーに座る。
「母さん、警察に連れて行ったんだけど、やっぱり薬物反応が出なかったから、違法とかにはならなかったんだ」
「……そうなんだ」
「日向も、『被害とか受けたうちに入らないし、誰が好き好んで自分の母親捕まえてくれなんて言うの』とか言ってさ? 今母さんは療養してるだけなんだ」
「……ふーん」
「精神状態も落ち着いてるし、暴れたのが嘘みたいでさ」
「……そっか」
「薬もまだ調べてもらってるけど、滞ってるらしい。でも、どっちかっていうと調べる気もないって言った方が正しいかも。精神患者だっただけで、この普通の薬を使えば落ち着くとでも言われたんじゃないかって、そう言われてる」
「…………」
「……お前さ、頭めちゃくちゃいいだろ? なんか知ってるかなって思っ」
「知らないよ」
「……そっか。悪かったな。そんな怖い顔すんな。折角可愛い顔なんだから」
話し始めてからというもの、葵の雰囲気が鋭くなっていくのをツバサはひしひしと感じていた。
「(……『知ってます』って、言ってるようなもんなんだけど)」
でも今は、質問をしたくてわざわざ二人きりになったわけじゃない。
「父さんからさ、お前に改めて言っとけって言われたんだけど」
「……? 何を?」
きょとん顔になって、葵の空気が和らぐ。それがつい少し嬉しくて、ツバサは小さく笑った。
「大臣。絶対なるからってさ」
「トウセイさん……」
「あと、今度ちゃんと防具つけて勝負させろって。超負けず嫌いなんだよ父さん」
「その前に呆けを治してくださいって言っておいて」
「ふはっ。わかった」
一頻り笑った後、ゆっくりと葵へ視線を戻す。
「『花咲 瑞香』」
「――――」
「あのあと教えてくれたんだ。父さんが負けた人の話」
知る人ぞ知るその人物は、武道界を総嘗めした謎の男として当時名を馳せていた。瑞香が沈丁花の漢名であったことから、『華咲く沈丁花』などの通り名が付いたと言われている。
「お前を拾ってくれた人なんだろ?」
「………………」
「言えないか?」
「……巻き込みたく、ないんだっ」