すべてはあの花のために⑥

 苦しげな葵に、確信めく。


「俺が守ってやるよ、その人を。その人たちを」

「多分、ツバサくんより途轍もなく強いけど……」

「なら、どうやったらお前はあの家から出られるんだよ」

「……わたしの考えを変えない限りは」

「どんな考えなんだよ」

「……わたしが、家に帰らなければいけないっていう考えだよ」

「っ、だから! それがなんだって言うんだって聞いて」

「最低で罰当たりなわたしに対する考えだッ」


 低く発せられた声に、体の芯が僅かに震える。本当に葵の声だったのかと疑ってしまうほどには、恐ろしく聞こえたのだ。でも、それ以前に。


「ッ、葵っ!」

「あ。……え? つばさくん?? どうしたの??」


 目の前から今すぐにでも消えていきそうな気配がして、慌てて葵の体を抱き締める。案の定冷たくなっていた葵の手を掴んで温めた。


「あ。……冷たかったね、ごめん」


 冷たいと、わかっていなかったのだろう。葵の瞳が、不安で揺れていた。
 そんな彼女の頭をそっと引き寄せ、頭のてっぺんに口付けを落とす。


「……つばさくん? なにし」

「もう一回ドレス、着させてやる」

「え……?」

「そう言った。絶対着させるから」


 顎をそっと持ち上げる。彼女の瞳は不安なまま。その瞳に映る自分は、誰が見てもわかるほど目の前の彼女に溺れていた。
 もう、隠せないと思った。そもそも隠すつもりもないのだけれど。


「……っ、つばさく」

「運命なんて、ぶっ壊してやるよ」

「――!」

「お前のこと。知りたいんだ」


 ツバサは額に、頬に、鼻に。唇を寄せる。

『――怖がるお前を守ってやりたい』

 そんな想いとともに。


「っ、ちょ。やめて……!」

「いや」

「っ、つばさくん……!」

「俺が知ってて、怖かった?」

「……!」

「運命のこと。嫌だった? ……でも、俺はそれを知ってても」


 ツバサは葵の唇に、噛みつくようなキスをする。


「っん……」


 力の入っていない腕で、肩を押し返そうとしてくる。その手を取って、指を、舌を絡めた。


「っ、は……」

「……こんなにもお前のことが、好きすぎてどうにかなりそうなのに」


 とんと肩を押し、ソファーに倒す。怖がる葵を上から見下ろすように組み敷いた。


「……!?  っ、つばさくん。やめて……!」

「だったら話せ」

「っ、いや、だっ」

「だったら大人しく食われてろ」


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