すべてはあの花のために⑥
sideヒナタ
「はあ。はあ」
葵が、ぺたんと扉の前に座り込む。
「…………っ。ごめん。なさいっ」
ぽろぽろと。涙が零れていくを、そっと拭う。それに驚いて、弾かれるように顔が上がった。
「いや、オレいるし」
ヒナタは座り込んだ葵を立たせようと腕を掴むけれど、葵は首を振るだけ。
「はあ。……何? 今度はどうして泣いてるの?」
ヒナタは、葵の横にしゃがんで覗き込む。
「ツバサに告白されたから? 何がごめん? 教えて? 言いたくない?」
ゆっくりと、顔が上がってくる。涙でいっぱいの瞳が、不安そうに揺れていた。
「教えて?」
やさしい声で、そっと促す。
「……いっぱい。あるの」
「ん? 何が?」
言いながら、零れていく涙を丁寧に拭ってあげる。
「好きって。思いが。強くって……」
「……怖かった?」
「どうしても。わたしは幸せにしてあげられないから……」
「……ツバサが好きなの?」
「すき」
ぴくりと、拭う手が止まる。
「……わたしは。みんなが。すき」
「アキくんは?」
「……ちょっと。ちがう」
「恋愛として好き?」
「……好き。恋愛も。お友達としても」
「ツバサは?」
「おともだち」
「はあ……」
ヒナタは大きな息を吐いて完全に座り込み、片腕で顔を少し隠していた。
「……もう一個。ごめんなさい。あるの」
「また日本語喋れてないよ」
「……でも。言いたくなくて。ごめんなさいも。あるの」
「……ごめんなさいばっかだね」
「わたし。が。最低。で。……ごめんなさい」
「え?」
「罰当たりでっ。ごめんな。さいぃぃぃぃー……っ」
「え。ちょ」
ボロボロと泣き出した葵の背中を、慌てて摩る。
何があったんだあの間にと、泣かしたツバサを脳内でもう一度打っ叩いておいた。