すべてはあの花のために⑥

「ツバサと何話したの?」

「……とうせいさん」

「は? 父さん?」

「……わかばさん」

「母さん? ああ近況とか?」

「……ん」


 とうとう葵語がわかるようになってしまったと。嬉しいような悲しいようなと思っていたら、葵が服をつんつん引っ張ってきた。
 どうしたんだろうと視線を上げると、目に涙をまだたくさん溜めた葵がいて。


「……よく。なるよ……?」


 涙を流しながら、葵はへにゃっと笑う。


「きっと。わかばさん。すぐ。よくなる」

「……ん。ありがと」


 葵のやさしさに、ヒナタも小さく笑い返す。するとそれにまた、彼女は嬉しそうに笑い返した。


「(……なんか、子供みたい)」


 でも、少しだけつらい。
 縋るように、弱々しく服を掴む彼女の手が震えていて。それがまるで、自分の心臓も鷲掴みされたようで。

 そんなことを思っていたら、葵の視線がすっと下がった。


「……つぎ。もう。3年生……」

「え? ああそうだね。今日終業式だし」

「……いやだな」

「ん? なんで?」


 涙を掬いながら聞いてやると、くすぐったそうに少し体を動かした。掬っても掬っても流れる涙が、……すごく。綺麗だった。


「……もう。生徒会じゃない」


 不安だと、寂しいと。ハッキリわかる表情に、言葉に。


「みんなは。わたしの。……家族。だから」


 らしくない言葉が、出てくる。


「……きっと、次も生徒会やるんじゃない?」

「……。え?」

「結構さ、その年の評価って関わってくるんだよ」

「ひょう、か……?」

「そう。……今年楽しかったからさ? このメンバー支持してくれる可能性あるよ」

「ほんと……?」

「うん。……だから、次も一緒にしよう。楽しい思い出作るんでしょ?」


 その言葉が余程嬉しかったのか。泣きながら彼女から飛び切り笑顔が零れる。


「うんっ。つくる……。いっしょにする!」


 それを間近で見て、赤くなるなという方が無理な話で。


< 226 / 251 >

この作品をシェア

pagetop