すべてはあの花のために⑥
「ツバサと何話したの?」
「……とうせいさん」
「は? 父さん?」
「……わかばさん」
「母さん? ああ近況とか?」
「……ん」
とうとう葵語がわかるようになってしまったと。嬉しいような悲しいようなと思っていたら、葵が服をつんつん引っ張ってきた。
どうしたんだろうと視線を上げると、目に涙をまだたくさん溜めた葵がいて。
「……よく。なるよ……?」
涙を流しながら、葵はへにゃっと笑う。
「きっと。わかばさん。すぐ。よくなる」
「……ん。ありがと」
葵のやさしさに、ヒナタも小さく笑い返す。するとそれにまた、彼女は嬉しそうに笑い返した。
「(……なんか、子供みたい)」
でも、少しだけつらい。
縋るように、弱々しく服を掴む彼女の手が震えていて。それがまるで、自分の心臓も鷲掴みされたようで。
そんなことを思っていたら、葵の視線がすっと下がった。
「……つぎ。もう。3年生……」
「え? ああそうだね。今日終業式だし」
「……いやだな」
「ん? なんで?」
涙を掬いながら聞いてやると、くすぐったそうに少し体を動かした。掬っても掬っても流れる涙が、……すごく。綺麗だった。
「……もう。生徒会じゃない」
不安だと、寂しいと。ハッキリわかる表情に、言葉に。
「みんなは。わたしの。……家族。だから」
らしくない言葉が、出てくる。
「……きっと、次も生徒会やるんじゃない?」
「……。え?」
「結構さ、その年の評価って関わってくるんだよ」
「ひょう、か……?」
「そう。……今年楽しかったからさ? このメンバー支持してくれる可能性あるよ」
「ほんと……?」
「うん。……だから、次も一緒にしよう。楽しい思い出作るんでしょ?」
その言葉が余程嬉しかったのか。泣きながら彼女から飛び切り笑顔が零れる。
「うんっ。つくる……。いっしょにする!」
それを間近で見て、赤くなるなという方が無理な話で。