すべてはあの花のために⑥
sideシント
「あれからどれくらい経ったかなー」
どこかの部屋に閉じ込められていた。壁の作りや装飾、調度品や置物に、裕福な家のどこかということだけはわかったものの、結局それがどこの家なのかはわからなかった。
「ていうか誰だったんだろあの子。めっちゃ可愛かったんだけど。正直ドストライクで好みのタイプだったし」
ある女の子が来たかと思ったら、いきなり目隠しをされた。でもそれは無理矢理ではなくて。すごくやさしくて。だからなのか、どうしてか自分も、それが嫌ではなくて。
それから車でどこかに向かい、着いたかと思ったら降ろされて、多分だけど捨てられたっぽい。
「てっきり殺されるのかと思ったけど、めっちゃ服の中飲み物とか飯入ってるし……」
服の中や持たされた鞄には、頑張ったら一週間くらいは保つ程度の食料が入っていた。
「……結局、なんで俺あんなとこいたんだっけ?」
しかも、家に帰らずに。どうして、こんなところにずっと居座っているんだろう。
「……そもそも、なんでここに来たんだっけ」
行くべき場所に行けと言われ、何故かここに辿り着いた。
「……なーんも、ないのになー」
潰れてしまった廃工場。昼間はこの中でも暖かいけど、夜はやはり寒い。捨ててあった段ボールなどを掻き集めてなんとか暖をとったけれど。
「……こんなとこ、知らないはずなのに。すっごいあったかいんだよなー」
こんな場所、あたたかいはずなんてないのに。
どうして自分は、ここが『行くべき場所』だと思ったのだろうか。
「……!」
ガラガラと、音を立てて廃工場の戸が開く。
一体誰が、こんな場所に来るというのだろう。錆びた埃っぽい匂いしかしない、こんな場所に。
首を捻っていると、廃れた鉄の扉から三つの人影が駆け寄ってくる。彼らは、よくよく知る人物だった。