すべてはあの花のために⑥
「……! 見つけた!」
「あれ? アキじゃん。え? てかお前いつの間にこんなに大きくなって……」
滅多に表情を崩さないというのに、自分の姿を見て、すごくほっとしたような顔になる、大好きな義弟。
「信人! 俺がわかるか!」
「え? わかるに決まってるじゃん父さん。てか、みんなしてこんなところで何してるの」
駆け寄ってきたかと思えば、思い切り肩を掴まれて正直痛かったけど。どうしてか父は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「お前も。……なんでこんなところに逃げ込んでんだよ」
「いや楓、別に俺逃げてきたわけじゃなくて、めっちゃ可愛い子に置いて行かれただけなんだけど……」
そして、裏表の激しい、いつもお世話になっている執事。
そんな三人に会えたのが、何故か何年振りかと思うほど久し振りな感じがして、つい嬉しくなる。
「(あれ? でもなんであの子のことを思い出すと、懐かしいとか、あたたかい気持ちになるんだろう)」
じんわりと熱を持ち出す胸の奥。
それが何故なのかわからなくって。でもあたたかくて、でもどこか不安で。わけがわからずに、胸元をぐっと強く掴む。
「……シン兄、それ……」
珍しく不安げに揺れる瞳で弟が指差すのは、自分の左耳だった。
「ん? ああ、これね。なんでか外れないんだよねー」
そう言って触るのは、左耳に着いているイヤーカフのようなもの。
鏡もないし、自分の姿が今どうなってるのかなんてわからなかったけれど、それを取ろうと思ってもロックのようなものが掛かっていて、それもできなかった。
「これが報酬って。……アオイちゃん。懐あったか過ぎんだろ」
「……あおい、ちゃん……?」
急に、胸が締め付けられる。
「ほいシラン。最初の仕事だ」
「もちろん。任せなさいって」
「ちょ、待って……」
なに、あおいちゃんって。
どうして、その名前を聞いただけで胸が切なく痛むのだろう。
やさしくて。あたたかくて。それで、飛び切り甘く響くこの名前は……。
「信人」
父が、何かが入った筒を渡してくる。
その後左耳に何かを当ててきたけれど、それをぼうっと見つめることしかできなかった。
愛しい気持ちが。溢れて。止まらない。