すべてはあの花のために⑥
『感謝状!!!!』
「――っ!? ……はい??」
左耳から聞こえてきたのは、そんな言葉。
はっきり言おう。デカすぎて鼓膜が破れるかと思った。
どうやら、耳に当てられてるのはボイスレコーダーのようだ。それを自分が手に持つと、父は泣きそうな顔で笑いながら、そっと離れていった。
「(……父さんはなんで、そんな顔をしているんだろう)」
そもそも、何か感謝されることなどあっただろうか。
『皇 信人 様』
……あれ。この女の声、どっかで聞いたことあるような……。
『あなたと出会ったのは今から約七年前の4月6日。この、廃れた工場の中でした』
……出会った……?
『あなたは自分の記憶も消されてしまう恐怖から逃れるために、皇を飛び出しました』
え。……何。そんなの俺、知らない……。
『アキラくんとお母様が襲われ、お母様は重体。そんな風になってしまったお母様を助けられなかったお父様は皇に記憶を消され、廃人のようになってしまった』
……っ、あ、たまがっ。……何。これ。耳鳴り……?
『飛び出してここへ逃げ込んだあなたは、今度は皇から追われ、その恐怖で身を縮めていました』
【――……。っ、ごめん。あき。とうさん。かえで……っ】
彼女が話す度、頭に耳鳴りが響く。
でもその度に、自分がなくした欠片を、取り戻している感覚がした。
『そんなあなたを、わたしが見つけました』
【――……? あれ? 黒猫さん……?】
現れた可憐な少女に、一瞬で心が奪われた。
『ひとりぼっちで寂しくて、精神状態も不安定になっていたわたしの前に、あなたが現れたんです』
【とっても綺麗な黒い髪! 瞳もキラキラですね?】
【……あり、がとう……?】
とても可愛かった。でもどこか寂しそうな、苦しそうな感じがしたんだ。
『あなたは皇から逃げていたせいで、わたしに名字は教えてくれませんでしたね』
【お名前はなんて言うんですか? わたしは、あおいって言うんです】
【……し、んと】
最初は渋った。でも、彼女に自分の名前を呼んでもらいたいと思った。
『わたしの我が儘で、あなたを道明寺に巻き込んでしまって、本当にごめんなさい』
【しんとさん! わたしとおともだ、……えっと、わたしの執事になりませんか?】
【……はい?】
友達だと、危ないから。でも、寂しいからそばにいて欲しかったんだよね。ちゃんと、わかってるよ。