すべてはあの花のために⑥

『でも、そんな楽しかった日も、あなたに盗聴器が着けられてから崩れ出しましたね』

「(……! そうだ、盗聴器!)」


 慌てて左耳に触れるが、ピアスのようなものはなくなっていた。


『今は外れて、代わりにあなたの道明寺にいた記憶を消すために、“それ”を着けています』

「(……あおいっ)」


 ぎゅうっと、未だ外れないそれを触ろうとすると、カエデに止められる。思わず反抗しかけたけれど、彼の目はただ『聞いとけ』と訴えていた。


『わたしは、そんな苦しそうなあなたを見るのに耐えられなかったんです。わたしの前では敬語を外して、ただのシントとして話してくれていたのに』


【葵と話したい
 おかしくなりそうだっ
 息が詰まる
 ずっと頭が痛いんだ】

 そう。話せないから、スマホでやりとりをしていたんだ。


『……潮時だと、思いました』


 寂しそうなその声に、自然と自分の視線も下がる。


『皇のクリスマスパーティーに出席すること、皇だけを道明寺の名ばかりのパーティーに参加してもらうこと。……修学旅行から帰ってきた時、あなたにそう教えてもらいましたね』


 ただ『いつかそんな日が来ると思っていた』と。覚悟をしていた葵は、そう言っていた。……自分も、その覚悟をしていたはずなのに。


『あなたももうわかっていたのでしょう。ここできちんと、わたしとアキラくんが婚約することを正式に認めさせるつもりでいると。お父様たちが動き出したことを。……わたしの時間が迫っていることを』


 行って欲しくなかった。何度も連れ去ろうと思った。このままだと、葵が消えると思ったから。
 でも一番は、……誰かのものになる葵を。見たくなかったんだ。


『強く当たったこと。すごく後悔してるんです。今すぐ会って謝りたい。そんなこと思ってないよって抱き締めたい。つらい思いさせてごめんねって。泣かせちゃってごめんねって。直接言ってあげたい』


【このことはきちんとお父様にご報告させていただきます。それまで次の働き場所を探すといいわ。……もう、わたしの視界にも入らないで頂戴。気分が悪いから】

 何となく、わかってた。でもやっぱり、嘘でもそんなこと言われたのがキツかった。
 一緒に逃げようと思った手を。……掴みに行けなかったんだ。


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