すべてはあの花のために⑥
「あんの愚弟……!」
ツバサはもう一度葵の前にしゃがみ込み、焦点の合わない葵に話しかける。
「葵。さっきのは本音じゃないから。そんなこと思うわけないじゃない。だって日向は」
「いい、んだ。ツバサくん」
「何言ってるの! いいわけないでしょ!」
ツバサはそう言ってくれるけれど、葵は力なく首を振るだけ。
「わたしが。悪いから。わたしなんて。みんなに嫌われて当然で――」
――バシンッ! と、生徒会室に乾いた音が響く。ツバサが、葵の頬を叩いたからだ。
「――っ」
「やっぱりアンタ、おかしいわ」
「っ、つば」
「ちょっとアンタも頭の中整理しなさい。これじゃあ何度やっても同じよ」
ツバサもそう言って生徒会室から出て行った。
ピキピキ。ピキピキと、まるで耳鳴りのように鳴り出すひび割れの音に苦しんでいると、キサがハンカチを濡らして頬に当てながら、縄を解いてくれる。それに加わってアキラも解いてくれた。
「葵」
「……あ。アキラくん。返事、伝わった?」
「え?」
首を傾げるキサに対し、アキラは葵の言葉に小さく頷くだけ。
「……そ、か。よかった」
「葵……」
「あっちゃん……?」
解けたというのに、葵はそこから動こうともしなかった。
「……あお」
「アキラくん約束」
「……!」
「やくそく?」
アキラは固まったまま、それ以上は話さない。
「……ごめんねアキラくん。好きに。なっちゃって……」
「……いいよ葵。俺はそれでもお前が好きだし、お前から離れるつもりなんてないから」
「え? ……え?」
葵の頭をそっと撫でたアキラは、葵とキサを残して生徒会室を静かに出て行った。