すべてはあの花のために⑥

 そこでキサが、アドバイスをしてくれた。


「あっちゃんの場合、右手に結ぶのって気が引けるでしょう?」

「……うん。申し訳ないと思ってしまう」

「だから、違うリボンを持っておくんだよ!」

「え?」

「だから、赤いリボンが結ばれたチョコの返事は、予めオレンジとかを用意しといて、代わりに相手の左手に結んであげるの!」

「おお。なるほどね!」

「まああたしはいつも、水色を左手に結んであげるけどね~」

「え……」


 み、水でもかぶって反省しなさい……?
 やっぱり女王様の気質、ばっちりあるわと実感した。


「あとは、自分から外しちゃ駄目って感じかな?」

「ん?」

「14日は一日着けておくの。終業のチャイムが鳴るまで」

「な、長いね」

「そう。だからお披露目よりもきっついのよ。しかもその日は多分一日授業になんないからね」

「え?」

「みんながお目当ての相手を巡って校内駆け回るってこと!」

「でも、逃げちゃいけないんでしょう?」

「それは目の前に出されたらの話! 見つかったらもう逃げちゃ駄目なんだよ~」

「……嫌な予感がするんだけど」

「そう! さっすが頭の回転速いね! 多分生徒会の場合、一回見つかったらその場から一日動けないからね。終業まで相手するようになるよ」


 せめて午前中とかにしようよ。終業とかつらいってば。


「(……みんなのご家族にもあげようかな?)」


 お世話になったし。ついでにリボンも結ぼう。


「(ご家族の方たちには緑で、ユズちゃんは橙で。トーマさんには紺で、理事長は水色っと……)」


 あとは……うん。渡さなくていいか。


「(いや、渡せばいいか)」


 色を変えて、伝えればいいだけだ。それがいい。……そうしよう。

 そのあとはいろいろ雑談して、チョコは何にするかとか決めたり、今後はどうやってみんなに関わっていけばいいかとか話をしたけれど。


「あっちゃん得意の仮面で、当日まで逃げ切ればいいのさ!」


 話しかけられたらそうやって逃げてあいつらをいじめてやろうということになった。


「(す、すごい罪悪感……)」


 そんな葵の心情に気付いたのか、キサから「お互い様だから大丈夫!」と言ってくれた。正直言って、全く説得力がなかったけれど。


< 41 / 251 >

この作品をシェア

pagetop