すべてはあの花のために⑥

 そんなこと言い始めた葵に、みんなは一気に気まずさなんか吹っ飛んだ。


「うん! いいよ~! あいつ暇だと思うから、いつでもどこでも何度でもどーぞ」


 あっけなく彼氏の貸し出し了承に、またもやみんなビックリである。
 そして、あまりの扱いの雑さに、みんなは心の中でキクの頭をよしよしと撫でてやった。


「では日程は直接やりとりさせてもらいますね。決まりましたらご連絡した方がいいでしょうか」

「大丈夫だけど、知ってたら鉢合わせないから教えておいて欲しいかな?」


 みんなは思いました。『何に鉢合わせるの!?』と。
(※普通に話してるところ)


「わかりました。……ありがとう、キサちゃん」


 仮面をずらしてお礼を言う葵に、キサは「いいよ」と笑った。


「でも、溜まったんならちょっと心配かな」

「いえ。そういうわけではないんです。だから安心してください」

「そっか。……ちなみになんだけど、あいつとどうするの?」


 そんなことを言うキサに、みんなの喉がゴクリと鳴る。


「? 少しお話するだけですよ?」

「ふーん。そっか」

「でもわたし、だいぶ前に彼から挑戦状を叩きつけられておりまして」

「へ? 挑戦状?」

「わたしのこと舐めんじゃねえぞ? と、ちょっと文句も言うつもりです」

「そ、そう……」


 みんなは同時に思いました。そして念じました。『キクよ、死ぬな』と。
(※ちなみに挑戦状というのは、彼が葵に助けてもらう本当に最初の頃の話なので、すでに彼は葵に完敗を喫しています)


「どうやら彼は話が得意らしいので? いっちょどっちが上か、この際ハッキリしておいた方がいいと思いまして」

「あっちゃん外れてる! 仮面仮面!」

「おっと。ありがとうキサちゃん」


 コントっぽくなって、最終的にみんなはどう反応したらいいのかわからなくなった。


「では、そういうことなので近々お借りしますね? 貸出票はどこに?」

「あ! 作ってなかった! でもまあ、あっちゃんならいつでもどうぞだから、口頭でいいよ~」


 完全に物扱いになったキクに、みんなは心の中でやさしく彼を抱き締めてあげましたとさ。


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