すべてはあの花のために⑥
時刻は6時50分。
「(まあわたしはジンクスに乗っかってるだけだから、別に始業前でも関係ないけどね~)」
始業のチャイムが鳴るのは9時。それまでに葵の気持ちを伝えられればと、取り敢えず大丈夫そうな人がいるところへ歩き進んでいた。
「ああ。葵、おはよう」
「いやアキラくん、何してるんですか……」
理科室の扉を開けると、そこにいたのはやっぱりアキラだったのだけれど。
「ん? 寒いから温まろうかと思って」
「違いますよね? アルコールランプでべっこう飴作ってるんですよね?」
やっぱりキャラはぶれなかった。
「甘い匂いに誘われて、掛かるかなと思ってたんだ」
「え? どういうことですか?」
アキラは火を止めて立ち上がり、葵の元へとやって来る。
「これ以上ないものが掛かって俺は嬉しい」
「よく、わかりませんが……」
「待ってたんだ、葵」
「アキラくん……」
彼の目は真剣そのもの。そして、すっと手を伸ばしてくる。
「チョコ下さい」
黙っていると、今度は両手を突き出して『頂戴頂戴!』と、駄々を捏ねる子供みたいに上下に振っている。
「アキラくん……」
葵は頭を抱えた。緊張感を返してくれ。
「なんでだ? 今日は解禁日だろ」
「ダメです。ほどほどにしないと、急激にまた血糖値が上がるでしょう。それにチョコは脂質も多い。体がビックリしちゃうじゃないですか。何日かに分けなきゃダメです」
「むう」
ちょっと拗ねている彼は、やっぱり手紙を渡してもいつも通りで嬉しかった。
「……はい。アキラくん」
小さく笑いながら葵は、青と白と橙色のリボンが結ばれたチョコを渡してあげた。するとアキラは白を外して、葵の左手に結んでくれたのだけれど。
「……なんか、すでに着いてるんだが」
「ああ、これはユズちゃんとキサちゃんからです」
葵がそう言うと、アキラは目を見開く。
「ん? どうしたんですか?」
「俺のとこが一番……」
「……? まあ、そうですね?」
「(……まあたまたまか)」
そう思ってアキラは、自分が持ってきていたリボンを葵の左手にも結んだ。その色はもちろん赤。
「アキラくんすみません。青に返事は……」
「ん? ああ。別に謝って欲しいこともないし、そのままもらっとく」
「え?」
今まで隠していたこととか、そんなのも含めての謝罪をするつもりだったのだけれど、彼は嬉しそうに葵のチョコを見つめているだけ。
「葵の気持ちは、手紙をもらった時点で痛いほど伝わってきてたから」
「アキラくん……」
「葵? 白で、話してくれ。思う存分」
「……はい。ありがとうございます」