すべてはあの花のために⑦

「(懐かしいな……。お二人とも。元気だろうか……)」


 ぷかぷかと浮かびながら。流れていく映像を、現在ベッドで眠っているはずの葵は夢の中で見ていた。



『それじゃあ、あなたのお名前、教えてくれる?』

『なまえ……』

『そうだな。お嬢ちゃんのこと、なんて呼んであげたらいい?』



「(……言いたかった。でも、言えなかった)」



『……わたし。なまえ。あおいって言います』

『あおいちゃん?』

『……!!』


 久し振りに、名前を呼んでもらえた。嬉しかった。


『名字はなんて言うんだ? オレらは花咲って言うんだ』

『みょうじ……。はなさき……』

『いや、それオレらのな? まあ、お嬢ちゃんさえよければ、いつでも花咲になってくれていいからな』


 にかって笑ってくれる男の人に、絶対に言えなかった。


『どうしたの? あおいちゃん?』

『……みょうじ。わすれた。です』

『……そっか。それじゃあ、思い出せたらいいな』


 がしっと頭を掴んできてそう言ってくれるけど、きっと二人は気がついてた。忘れてなんかいないこと。
 でも、捨てられたところの家だ。言いたくなかったのかもしれないと、そう思ったんだと思う。


『……あの。おふたりは……? ひのちゃん……? すとーかー……?』

『うん! それでいいわよ?』

『だめだめだめー! あおい? オレは瑞香っていう立派な名前があるんだ!』

『……みじゅーかー?』

『いや、ストーカーみたいに言わないで……』

『はは。はい。……みじゅかさん?』

『……!! ひのちゃんひのちゃん。オレ。泣きそう。そしてめっちゃかわええ……!』

『確かに可愛いけど、泣くのはせめてお父さんって言われるようになってからにして』

『お。そ、そうか。わかった!』


『頭まで筋肉だと、馬鹿だけど扱いやすいわ』と女の人が言ってるが、よくわからなかった。


『改めて。わたしの名前は緋衣乃っていうの。あおいちゃんも好きに呼んでみて?』

『え? ……じゃあ、ひいのさん』

『えー。さっきはひのちゃんって呼んでくれたのにー……』

『(すきによんでいいっていったのに……)』


 葵が思ってることがバレたのか、『うそうそ』とヒイノが言ってくれる。


『それじゃあ、これからよろしくね? あおいちゃん』

『……!! はい! ひいのさん!』

『いろんなこと教えてやるからな!』

『すとーかーに、なにをおそわるんでしょう……』

『だから違うからー!!』


 そんなこんなで葵はここ、花咲家に拾われたのです。


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