すべてはあの花のために⑦

きょうきんついてなくて


「(そうそう。ミズカさんは本当にヒイノさんのストーカーだからねー)」


 でも、話を聞いたら、とってもいいストーカーさんだった。
 あんな容姿のヒイノのことを、陰からバレないようにこっそり守ってあげていたらしい。ミズカ自体ヒイノにべた惚れで、守るとか本当に自己満足状態だったらしいけれど。


「(でもいいよね。見えないところでそうやって守ってもらって。言えなかったんだもんねミズカさん。恥ずかしがり屋さんだから。こういうことに関しては奥手だもんな~)」


 そんなストーカーも長くは続かなかった。理由は単純。ヒイノにすぐバレたから。
 ミズカの考えることだから、きっといろんな人にはバレていただろう。詳細までは聞いていないが、本人がストーカーだと自白していた。訴えられていいレベルだったそうだけれど、ヒイノがそれを訴えなかったのだという。


「(だって、そんなことしていてくれてるなんて思わなかったもんね。嬉しいよ。そんな人がそばにいてくれるなら、これ以上に心強いものなんかない)」


 それから二人の付き合いが始まるという、まさかの本当に被害者と加害者のゴールインが成立。波瀾万丈な人生だと思うわ、ほんと。


 花咲家に拾われた葵は、二人のことをたくさん聞いた。


『あおい! 聞いてくれ! そして見てくれ! オレの栄光の数々を!』

『ワー。スゴーイ』


 ミズカが見せてくれたのは、いろんな大会の賞状やらトロフィー、メダルなどだ。


『え。すごいと思ってないでしょ? 本当にオレすごいんだぞ? 強いんだぞ~!』

『すとーかー』

『まだ引き摺る? それ……』


 しばらくはこれを使っていこうと思った。


『でもね? あおいちゃん。この人これぐらいしか取り柄がないから褒めてあげて?』

『あ。きんにくバカ!』

『うん。よく知ってるわね~! よしよし』

『ひいのさんキレー! かわいい!』

『ありがとう! あおいちゃんには負けるけどね!』

『え。ほったらかしにしないでくれよ……』


 こんな日常会話。大抵ヒイノがミズカをいじるが、嬉しそうにするので気持ち悪くなってヒイノが最後はぶん殴る。……うん。よく結婚したね。


『でも今はこの人も引退して、畑仕事とか、わたしの学校に来て講師をしてくれてるの』

『え。もうしてないの? ……みたかったな』

『そうか。それじゃああおいにも、オレがしっかり教えてやるからな!』

『……へんなところ、さわらないでくださいね』

『触んねーよ!』


 葵も、最初から飛ばして彼をいじり倒していた。


『はたけ? がっこう!』

『わたし、小学校の先生をしてるの』

『せんせい!』

『そう。だからね? あおいちゃんのことも、お家でたくさんのこと、教えてあげるからね!』

『はい! せんせい!』

『あーもう! めっちゃくちゃ可愛い! 食べちゃいたい!』

『……えっ』

『冗談冗談~』


 この時ばかりは、ミズカよりも危機感を感じた。


『その小学校の体育館で、週に何回か空手とかを教えに行ってあげてるの、この人』

『……おしえる……』

『え。何でそんな疑いの目で見てくるんだよ』

『あおいちゃんもこの人から教えてもらうといいわ? ……そうね。可愛いから、変な人に狙われちゃいけないもの。護身術とかかな? わたしも教えてもらったのよ!』

『……へんなひと……』

『いやいや! あおい? オレのこと、そう言いながら指差すな……』


 でも、なんだか嬉しそうなので、やっぱり気持ち悪かった。


『(あれ? わたしより、きもちわるい……?)』


 かどうかは別に問題ではないし、冗談なので置いておこう。


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