すべてはあの花のために⑦
はんじゃいしゃはおことわりします
「(……あの頃は本当の家族になれたみたいで、楽しかったな……)」
ぷっかぷっか浮いていたけれど、次に出てきた人物で葵は耳を目を塞ぎたくなった。
「(いやだっ。やめて……!!)」
『こんにちは。……あおいちゃんって、呼んでもいいかな?』
『……。こん、にちは……』
誰だろう。知らない人なのに、どうして自分の名前を知っているのだろう。
『あおいちゃん? こちらは、道明寺薊さんという方で、わたしたちの知り合いなの』
『道明寺財閥の次期当主でな? 道明寺グループの社長さんでもあるんだぞ?』
『いやいや花咲さん、そんな難しいこと子供にわかるわけ』
『しゃちょうさん? おしごと、おつかれさまですね。ざいばつ……おかねもちさん、ですか?』
そう言う葵に、アザミの目が見開いていく。
『……この子は……』
『あざみさん。あおいちゃんは、とっても賢い子なんです』
『それにとってもいい子でな。オレの畑仕事も手伝ってくれるんだ。今じゃとっても強いし、力持ちなんだぞ~』
『な?』と言って、ミズカが葵の頭をわしわし撫でてくる。
『すとーかー菌がうつる~』
『あ! こら! あおい!』
そう言って葵は、花壇に水をあげに行くことにした。その様子を、アザミがじっと見ていたことも知らず。
『あの、……失礼ですが。その、奥様は確か子供は』
『ええ。産めません』
『ではあの子は? 施設から引き取った子ですか?』
『いいや。オレが海で拾ってきた!』
『は? う、海ですか?』
『そうなんです。……実は、その件で道明寺さんにお願いがあって』
『……なんでしょう』
『あの子。……あおいは、どうやら捨てられた子らしいんだ』
『…………』
『それで、前のご両親のことを聞いたんですけど、名字は何故か言えないみたいで』
『……思い出したくないからでは?』
『いや、そういうことじゃないみたいなんだ』
そう言うと二人は目を合わせ、少し俯いた顔に影が差す。
『あの子、情緒が不安定な時があって。今は殆ど落ち着いてるんですけど、夜中の数時間だけ。もう一人……あの子の中に住んでる子が、出てくるんです』
『え。……それって、二重人格ってことですか?』
『まあそんな感じなんだが、……その、もう一人のあおいに自分の名字と引き替えに命を救われたらしい』
『……よくわかりませんが、それをお二人は信じていると』
『ええもちろん』
『だってあの子はオレたちの娘だからな!』
自信たっぷりで、二人が笑いながらそう言ってくる姿が眩しい。
『……それで、私を呼んだのは……』
アザミはそう言うと、二人は頭を下げてくる。
『あなたなら何かわかるんじゃないかと思って、お願いがあるんです』
『あおいの両親と、話がしたい』
『あの子の両親を探してくれと、そういうことですか』
『無理を承知なのはわかっているんです。でも、道明寺のあなたなら、何かわかるんじゃないかと思って……』
『オレたちのまわりで頼れそうなのはあんたぐらいなんだ。……なんとか探してやって欲しい。もう一人のあおいを治すには、ちゃんと両親と向き合う必要があると思うんだ』
『……名字もわからない『葵』というだけで、全国にどれだけいると……』
『……ハッキリとはわからないんです』
『え? ……何か、ご存じなんですか?』
『『顔を出したお日様』』
『……はい?』
『あおいちゃん、名字のことをそう言ってたんです。だから、それがヒントかと思うんですけど……』
『アザミさん頼む。あんたしか頼め人はいないんだ。お金は……すまん。払えるようなものはない。ただ、何か手伝えることがあれば何でも言ってくれたらオレらは何でもする。だから、あの子を一緒に助けてやって欲しいんだ』
自分の本当の子供でない子に、そこまで入れ込んでいて、すごいなと思った。
『……わかりました。手は尽くしましょう』
『……! ……ありがとう、あざみさん』
『恩に着る』
二人は、嬉しそうに目を合わせていた。
『見つかるかはわかりません。私も仕事があるので、その空き時間ということにはなります』
『ええ。十分です』
『私も少し興味がありますし、あなたたちの手助けになれるならお手伝いさせてください』
『ありがとう。助かる』