すべてはあの花のために⑦

……っ、うわああああー!!!!


 それからしばらくして、開発の方向性が変わったと連絡が入った。


『お前には、記憶を消す装置を作ってもらうぞ』

『は?』

『薬の反応は出なくなった。上々の出来だ。ほぼ完成と言えるだろう。次は記憶を消し、人間を操作する』

『……そんなもの。なんの、ために……』

『そんなもの私の、道明寺のために決まっているだろう。……トップクラスの奴らを自由自在に操る。……いい。いいぞ! 愉しい世界になりそうじゃないか。やっぱりお前はヒーローだな! はははは!』

『……っ』


 現段階で、薬自体は反応を出さないものを作るのに成功し、人を壊すほどの破壊力がある。改良の余地だってまだまだある。依存性が異常に高いし、本当に壊れてしまう。
 資金調達は流石にここだけではできなかったので、協力してくれる会社と大臣から横流しでもらっていた。

 それから赤の仕事は、薬の方を少しでも改良できるように。そして新たに、記憶を消し、操ることができるものの開発に、重点を置いていった。


 少し落ち着いてきた葵の時間が長くなっていた頃、葵のところへアザミがやってきた。


『……なんだ、またお前か』

『す、……すみま、せん……』


 瞳の色で、葵だとわかったアザミは、『まあいい』と、葵にある報告をした。


『もう一人のおかげでな、とうとう消すことができたぞ』

『……えっ』


 聞きたくなんてなかった。
 でも、そうはさせてくれない。話すということは、そういうことだ。葵に拒否権はない。


『もう一人が提案してくれてな? ああ、お前も知っているんだったか。子どもの写真とともに脅迫文を送っていた親の話だ』


 予想なんてついていた。だって彼は今さっき、『消すことができた』と言ったのだから。


『なんとまあ不運なことに、交通事故で死んだらしい』

『……。っうぅ……』

『子どもを盾に取ると、親はやっぱり扱いやすくなるな? 流石だ』


 ぽんと頭を叩いてきて、アザミは葵の部屋から出て行った。


『……ごめん。なさいっ……』

((……ごめん。葵……))

『どうしてわたしはっ。生まれてきたんだろうっ……』

((わたしのせいで。……ごめん))

『つらいよ。……っ。くるしいよっ。かなしいよお……』

((……あおい……))

『……だれかっ。たすけてよ……』

((……たすけて、やりたいよ))

『消えたく。……ないよっ』

((……ごめん))

『手に入れたい人がいるからって……っ。いろんな人。犠牲にしてっ……』

((……そう、だね))

『そんなこと。……しちゃいけなっ。……。……っ、うわああああー!!!!』

((……ごめん。ごめんね。あおいっ))


 全部自分が悪いんだ。葵は悪いことなんて一つもない。
 助けてやりたい。できることなら。なんだってしてやりたい。……でも。何もしてやれない。

 ただ、葵をなんとか生かしておくことしか……。その時間を削りながらそうすることしか。できなかった。


 腐り、とうとう枯らしてしまった花は…………


                  ア
                  ネ
                  モ
                  ネ。


< 158 / 245 >

この作品をシェア

pagetop