すべてはあの花のために⑦

『……。きょうも。るにちゃんに。会いにいく……』


 苦しかった。もう、こんなことしたくなんてなかった。


『……でもっ。やめちゃったら。ひいのさんがっ。みずかさんが。……あぶなくなっちゃう……』


 よくしてもらったんだ、本当に。これ以上ないほど。


『るにちゃん。あいたい。……はやく。あいたいよっ……』


 花畑に着いて、葵はルニが来るのを待った。
 でもルニはその日、夕方になっても姿を現さなかった。


『……。まいにちって。わけじゃない、もんねっ……』


 でも、葵が来る時は必ずルニはいてくれた。


『……もしかしたら。今日は来ない日なのかもしれないな……』


 そう言って、葵はとぼとぼ……と家へ帰っていった。
 でも、その次も、その次も。葵はルニに会いに行ったけど、ルニが現れることはなかった。


『……。なにか。あったの、かなっ……』


 会って、笑って欲しかった。会って、抱き締めて欲しかった。


『……。またねって。言ったのにな……』


 自分が振り返ったのが不味かったのだろうか。いやでも、そんなことはないだろうし。


『……。うん。きっと来てくれる。……信じて、行ける日は行ってみよ』


 もうぼろぼろで、今すぐ声が聞きたかった。一目だけでも見たかった。
 毎日のように、葵は花畑へ行っては夕方までずっとルニが来るのを待って。でも来ないから、何度も振り返りながら、家へ帰ることを繰り返していた。


『帰ってきたか』

『……。ただいま。かえりました……』


 部屋に戻ってくると、何故かアザミが部屋にいた。


『お前にも、ちゃんと家の手伝いをしてもらおうと思う』


 何をさせる気だろう。自分も、薬の開発をしろとでも言われるのかと思った。


『中学から、桜ヶ丘という学校に通いなさい』

『……? がっこう、ですか』


 何を今更。通わなくても十分なはず。


『狙いは、海棠だ』

『……かい、どう……?』

『海棠は代々桜ヶ丘理事を勤め上げ、まとめているグループだ』


 それが一体何だというのだろう。学校に通わなければその分、時間が取れるというのに。


『そこをSクラスで卒業したものは、将来の援助をしてくれるそうだ』

『……。わたしに、そこをSクラスで卒業しろと』

『流石だな。もう一人に比べたら劣るが、まあ少しか。……そこで、援助をしてもらう』

『……お金、ですか』

『違う。海棠に、薬を運ばせる』

『……!!』

『なんでもしてくれるそうだからなあ? ……楽しみだな』

『そ、そんな学校、あるんですか』


 なんて学校だ。悪事の手伝いをするなんて。


『やはりお前はバカだな』

『え……?』

『初めに篩にかけるに決まっているだろう。私たちのような者、最初から入学もできん』

『……なのに、わたしは入学できるんですか……?』

『それはそうだろう。全生徒を人質に取られたら理事長も動けまい?』

『……!? な、なんでそんなこと……!』

『そんなもの私のためだ! 全てなっ!!』

『……っ、くっ。はっ……』


 首を掴まれ、息ができなくなる。


『……いいか。お前はただの駒だ。もう一人は、ちゃんと道具になっているがな』

『っく。……っぁ……』

『駒は駒らしく、主の指示にはきちんと従え』

『……。ぁ……』

『……ふん。所詮人など、自分が一番可愛いものよ』

『はっ。はっ。……はあ。はぁ……』


 思い切り最後に力を入れられたあと、やっと手を離してくれた。


『もう一人はそんなところに行くつもりがないらしいからな。お前しかできないことだ。喜べ』

『……っ』

『返事は』

『……は。いっ』


< 159 / 245 >

この作品をシェア

pagetop