すべてはあの花のために⑦

『(気持ち悪い……)』


 リアルに吐いた。何回も吐いた。


『(葵も吐いてる。……これは、精神的に不味い)』


 こんなことをずっとさせられて、今までよく保ったものだ。


『(葵も、取り敢えずはシントのおかげで心の修復に向かってる、か……)』


 自分なんかどうでもいい。これは自分への罰なのだから。


『(……ごめん葵。わたしがあんたに棲みついたしまったばかりに)』


 でもそうしなければ、葵はすでにこの世からいない。


『(助けたかっただけだったのに。……守りたかっただけなのに)』


 ただ。愛を知って欲しかっただけなのに。


『(どこで間違えたのかな。もっと早く見つけてあげてたら。……あの親たちから。守ってあげられてたら。よかったのかな)』


 悔しい。ただ大切なのは、葵だけなのに。


『(愛を知ってもらいたかった。彼を利用したのは申し訳ないけど。それでも、誰かからもう一度好意を向けてもらえれば、葵が変われると思った)』


 そんなの。花咲く前にあいつらに摘み取られるけど。


『(……わたしが。全部悪いんだ……)』


 そう。何もかも。


『(ぜんぶ。……ぜんぶぜんぶ。……ごめんなさいっ)』


 葵の日記を読みながら。赤もその涙でできた皺とぼやけた文字を何度も見返しながら、葵と同じように、そこに涙を落としていた――……。



『(……。かあさん……)』


 先日、急激に植物状態の母の状態が悪くなり、そのまま帰らぬ人となった。


『(……ごめん。かあさん。俺は。……親不孝者だ)』


 用意された自室で、ただパソコンの前で静かにシントは涙を流していた。


『(……。あき……)』


 次期当主として、アキラがシントの代わりとしてこれからの皇を背負っていくことを知った。


『(……っ、なんで。それを、つけてんだ……っ)』


 アキラの左耳には、父が壊れた原因となるものが着いていた。写真を見る限り、まだ壊れてはいないようだったけれど……。


『(……何飴ちゃん舐めてるの。可愛いなあ……)』


 ペロペロキャンディーを美味しそうに咥えているアキラを見て、何故か悶絶していたりもする。


『(……好きじゃ、なかったはずなのにな……)』


 甘いもの。……アキラは得意じゃなかったはずだ。


『(……これが副作用、か……)』


 拝借してきたイヤーカフについて調べたけど、やっぱり赤の頭がよすぎるのか、シントは情報をこの時はまだあまり掴めていなかった。


『(……中学生、か……)』


 葵にも、普通に学生生活を送ってみて欲しかった。


『(楽しいよ。一緒に勉強して喋って。俺も家は結構窮屈だったから、学校は好きだった。ま、言い寄ってくる奴らも多かったけど)』


 でも、葵はそんな楽しむことさえさせてもらえないのだろう。


『(……っ。つらすぎるっ……)』


 少しは落ち着いたけど、まだまだ学校に通えない。


『(俺が楽しいこと、いっぱい教えてやるからな)』


 次は何を試してみようか。
 葵に技を教えてもらう? いや、身が持たない。


『(……あれ、見せてやるかな……)』


 シントが用意したのはマンガやアニメ。


『(……何でもチャレンジだ!)』


 まあ、それにめちゃくちゃハマってしまって、後々困り果てるのはシントだけれど。



『(……もう。いやだっ……)』


 こんなこと、もうしたくない。


『(……お父様は、赤を盲信してるみたいだ)』


 確かに赤は、自分よりも頭が切れるかもしれない。


『(……でも! わたしだって負けてなるものか……!)』


 赤から、記憶操作のものがほぼ完成。薬物を使用しない、ある期間の記憶消去も睡眠薬と混ぜて完成。そして、反応が出ない薬物は、後遺症は残らないものの依存性はやはり高く、消したい記憶が強いほどおかしくなりやすいが、それもほぼ完成したと、……報告があがった。


『(……お父様のことだ。赤の頭を使って、これ以上のものを作らせるに違いない……!)』


 そんなこと、もうさせてなるものか。


『(わたしが赤になりすまして、計画を失敗するようなことがあれば。……取り敢えずはこれ以上のことは求めてこないかも知れない)』


 それにもう、犠牲者なんて出させない。


『(……わたしが守ります。名も知らない誰かを。……絶対にっ)』


 これ以上、思い通りに事が運ぶなんて思うなよ!


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