すべてはあの花のために⑦
『――朗報だ』
そう言って、アザミが仕事中にもかかわらず、嬉しそうに赤に報告しに来た。
『……なん、ですか』
赤にとって今の仕事は、海棠を使っての運搬方法、経路を考え、海外へと輸出すること。
『承諾された』
『……!!』
なんのことかなんて、すぐにわかる。
『流石だ。壊れた父親など、判断が鈍るな。まあそれまではちゃんとあそこを保ってもらっていかないといけないからな。……まだ廃人のようだが、いつ頃治りそうか』
そんなことを、愉しげに言うなんて、どうかしてる。
『あれは試作段階だった。外せば徐々には治っていくはずだけど、一気に消しすぎたせいで時間がかかると思う』
『そうか。……まあいいだろう。お前との婚姻の際までに、きちんとしてもらっていればそれでいい』
婚姻で、自分が完全に葵の体を奪うことも、すでに言わざるを得ない状況にさせられたため、アザミは知っている。
『息子が18になった直後に、それを執り行おう。息子も、母親の死のおかげで徐々に壊れだしたぞ』
『(あきら……)』
自分のせいで、関係ない人たちを巻き込みすぎた。
『父親も母親が死んだあと、冷静な判断ができないまま縁談を承諾した。……これでもう、準備は万端だ』
にやり。そうアザミが嗤う。
『(そう。お母様が……桜が、散ったのね)』
助けて、あげられなかった。
自分がここから逃げれば。彼らを、あいつらの手から逃れさせることができれば。何か変わっていたのかもしれないのに。
『(……でもっ。そんなこと。できなかった)』
ここから逃げたとしても、いろんな手を使って、自分たちを探しに来るだろう。今よりも、たくさんの犠牲者を出してでも。
そんな、いつ見つかるかわからない、怯えた生活でもいい。自分が犠牲になればいいと思ってた。
『(……でもっ。結局ダメだ。学校を卒業すれば。きっと……)』
世界の。たくさんの犠牲者が出るに違いなかった。
『(……っ。誰かっ。助けてよ。……葵を。助けて……)』
悔しげな赤の顔を、満足そうに見下ろし、アザミは部屋を出て行った。
それから。葵はシントのおかげで、学校に通えるぐらい精神状態が落ち着いたため、赤の時間を減らすことができた。
……高校を、ほんの少しだけ遅れて、入学できるようになってしまったのだ。