すべてはあの花のために⑦
四十五章 向
甘い物好きにもほどがありませんか
春。出会いと別れの季節。
お疲れ様パーティーをした生徒会の一番最後の仕事は、入学式及び始業式を無事に終わらせることであった。
「くっ、ふあ~……」
「どうしたんだ葵。寝不足か?」
「あ。……はい。そんなところですよ?」
先程アキラは無事にシントの回収に成功したと伝えたが、アキラにはまだ山ほど聞きたいことがあった。
「葵、本当に大丈夫なのか? 家で何かされてるんじゃ……」
「え? いえいえ。本当に大丈夫です。……シントも何をそんなに慌てたのでしょうね?」
アキラには、シントの言葉や表情が、今でも耳や目に焼き付いている。あれだけ取り乱していたのだ。葵の言葉を、そう簡単には信じられないでいた。
「アキラくん。あなたを振り回してしまって、本当にごめんなさい。時期が来たら、あなたはシランさんと一緒に破談へと動いてくれますか? よろしく、お願いします」
「それは構わないが……」
――――どこか、何かが、おかしい。
葵に話を聞きたくても、仮面を完璧に着けられて、近づこうにも近づけない。
「葵。今シン兄は、部屋から出てこないんだ」
「そうなんですか」
「何かを必死に探してる。ずっと何かをしているようで、俺ともあれから一言も口を聞いてくれない。ずっと。……ずっと部屋に籠もってる」
「……そう」
予定通り、入学式が進んでいく。新入生たちは新たな希望を、胸いっぱいに膨らませているだろう。
そして、あっという間に始業式が続いて始まる。
「お前があのレコーダーで何を言ったかは知らない。最初の『感謝状』と『駄菓子菓子だよ』っていうのだけはデカかったから聞こえたが」
「だ、駄菓子菓子って。あ、甘い物好きにもほどがありませんか……」
「それを聞き終わるぐらいか。シン兄の様子が明かおかしくなった。電話でも何でもないのに、お前を呼び止めてるようだった」
「……特に、何も言ってはいないんですが」
でも、その始業式も終わる。司会のツバサが、『閉会の言葉』と、マイク越しに話したのが聞こえた。
「必死に叫んでた。レコーダーを聞き終わったあとも。『ヤバい、ヤバい』って。『戻らなきゃ』って。……それは提携で、戻すことができないんだと言ったら、シン兄は『そんなこと言ってる場合じゃない』って、泣きそうな顔で言ってた」
「何がシントをそんな風にさせてしまったのでしょう」
閉会の言葉を、キサが言ったあと、新入生並びに保護者の方と在校生は各クラスへ移動となる。
最後の仕事は、これであっけなく終わった。