すべてはあの花のために⑦
「……シン兄はこう言ってた」
『――全部バレてるんだ!! 何もかもッ!!』
「それから急いで帰ってきたかと思ったら、お前から届いた荷物を抱えて自分の部屋に籠もったんだ」
みんながそれぞれ持ち場から戻ってくる。未だ動こうとしない、ステージ裏で音響等の仕事をしていた葵たちの元へと。
「どうしたのー? 二人と、も……」
カナデは、アキラの表情を見て言葉を止めた。
「あっくん……? 何でそんな、怖い顔してるの……」
それが伝染したかのように、みんなも心配そうな顔になる。
「……葵。お前、何を考えてる」
アキラの紡いだその言葉は、みんなにも聞こえたようだ。みんなの視線が、一斉に葵へと集まる。
「……お前、またなんか隠してんのかよ」
チカゼの空気が鋭くなっていく。声には苛立ちが多く含まれて。
「あおいチャン……」
「……もう少しだけ、待っていてくれますか?」
心配そうに覗き込むアカネに、葵は微笑みながら答えた。みんなの眉間に皺が寄る。
「葵。どう、したんだよ……」
その『微笑み』が、あまりにも完璧過ぎて、ツバサは思わず鼻白む。
「アキラくん。シントに伝えておいてもらえないでしょうか。『それもわたしはちゃんと知っていた』と。お願い、できますか?」
「……わかった。それは伝えるが、でも葵」
「大丈夫です、きちんとお話しします。だから、もう少しだけ待っていてください」
「わたしたちも早く新しいクラスへ行きましょう」と、葵はさっさと講堂から出ていってしまった。彼女の顔には、恐怖を抱いてしまうほど仮面がぴったりと貼り付いており、誰も引き留めることはできないまま。
「……あ、きら……? あっちゃん、何があったの……?」
「……わからない」
アキラはただ、悔しそうに拳を握り締めているだけ。
「……アキくん。シントさん、アキくんのとこ、帰ってきたってこと……?」
ヒナタもアキラにそう聞いてくる。でも、アキラはそれに答えられない。
「アキくん。ねえ、何とか言ってよ」
催促するヒナタの声に、みんな視線がアキラへと集まる。
「(……でも、葵のことだから、これ以上は話せない……)」
……あれ。でも待て。
葵は今、みんなが揃ってから『シントに伝えてくれ』と頼んできた。
「(ならこれは、言ってもいいことだ。だったら……)」
アキラは俯いていた顔を上げ、灰色の瞳でみんなを見渡す。
「みんな、話がある。HRが終わったら皇まで来てくれ」
みんなは大きく頷いて、早々に講堂を後にした。