すべてはあの花のために⑦

ぶっ飛んだらバカも治りますかね?


 葵が名前を取り戻した途端、会場中が一気に騒がしくなる。


「やれえーお前たち!! 高い金で雇ってるんだ!! この場を何とかしろ!! 公安などに負けてたまるものかぁぁああー!!」


 参加者の……いや。政治家の応援としてきたのは、ヤクザとそれに混じったあちら側の警察たち。


「……っ、不味い!」


 流石に大人数の応援が来られたせいで、公安側が手に負えない状況となった。……しかも。


「……あんたの。せいで……」


 突き飛ばされたはずのエリカの、今度の標的はアザミに。じりじりと、壁際に追い詰められているのが目に入る。

 会場中がもみくちゃになり、最早強いみんなでさえも応援に加わっているような状況だ。それにいち早く気がついた葵だったが、如何せん動きづらい。


「……っ、――シント!!」

「叫ばなくってもわかってるって」


 仮面付きのシントが、葵にパーカーを投げてくれた。流石、準備がよろしいことで。


「怪盗さん。……ううん、ルニちゃん。信じて待ってたよ」

「…………」

「でもやっぱり、わたしは守られるだけなんて性に合わないんだ」


 パーカーを羽織り、長いドレスの裾を思い切りビリビリに破く。
 そんな葵を見ても、目の前の彼は驚くこともせず。ただそうすると思ってたと、小さく笑っていた。

 そんな彼に葵も、自信たっぷりの笑顔で笑い返す。


「今まで全力で守れなかったからね? 今度こそ本領発揮、……してやろうじゃないか!」


 パーカーの前を閉めながらそう言葉を投げ捨て、動きやすくなった恰好で葵は駆けて行く。
 そんな葵にふっと笑って、怪盗も応戦へ向かっていった。



「…………お。まえ……」

「あなたがもっと。……ちゃんとしていたら」


 一歩、また一歩と壁際に追い詰める。あちら側の警察も、飛び道具は持ってこられなかったらしい。警棒や、酷い奴らはヤクザたちと同じようにナイフで応戦してきた。


「……せっかくの計画が丸潰れよ。ちょうどいい手頃な場所を利用してやろうと思ったのに……」

「…………」

「これで、何もかもリセットできると思ってたのに。……あの人だって。考え直してくれると思ったのに」

「…………」

「ええそうよ。秘書と手を組んでたもの。恨めば? 何もかもを台無しにしたのはあたしだし、憎めばいいじゃない。……でも、気が済まないのよ」

「…………」

「……あの世で思う存分、……恨めばいいわ!!」

「……!!」


 脇にナイフを抱えたエリカは、そのまま一気に距離を詰めた。


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