すべてはあの花のために⑦

きみがすき


「(……いや、いることはいるけどさ)」


 頑張って、ない体力を振り絞って、大汗かいてここまで来たのに。


「(なんでそんなに縮こまってるんだよう……)」


 どこだ。一体どこに、さっきまで満ち溢れていた自信を落っことしてきたんだい。


 丘の上の花畑。いつのも場所で膝を抱えて小さくなっている彼の背中に、大きなため息と小さな笑みを零しながら。葵はそっと、彼の背中に自分のそれをくっつけて座り込む。そしたらめちゃくちゃビクッッて体が震えるもんだから、こっちが驚いた。


「………………ハナ」

「え。まだそれで呼ぶの?」


 銀髪の彼は、そう言った切り口を噤んでしまった。


「……どうして、何も話してくれないの?」

「…………」

「……だったら、わたしもずっとルニちゃんって呼ぶから」

「…………」

「え? いいの? 本当に? 学校でも呼ぶよ? いいの?」

「…………」


 なんで話してくれないのかなって。どうやったら話してくれるかなって。……ちょっと、考えてみた。


「ねえ。もしかして……だけど、わたしがわかってないと思ってる? 君のこと」


 沈黙しか返さない彼に、なんだ。やっぱりそういうことだったのかと、また小さな笑みが零れる。


「……ちゃんと、わかってるよ」


 そう言いながら、彼の背中にぐっと体重を乗せた。


「君が一体誰なのかなんて、わたしがわからないわけないじゃん」

「絶対に間違ってる」

「え。やっと話したと思ったらそれなの? しかも、なんでそっちには自信たっぷりなのおー……」

「……だって」

「ん?」

「……バレないように、してたから。きっとショック受けるよ。思ってた奴と違って」

「……そんなことないよ」

「あるよ」

「即答ですかい」


 どうしよう。結構勇気を出してここまで来たんだけど、どうやら先に、彼の方に勇気を分けてあげないといけないみたい。


「……それじゃあ、わたしが先に少しだけ話してあげるね?」

「……?」


 葵は彼にもたれ掛かりながら、見上げると瞳に映る、綺麗な青空に。あったかい太陽に。そっと手を伸ばした。


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