すべてはあの花のために⑦
「わたしの趣味は、みんなの小っちゃい頃の写真を集めることです」
「……? うん」
「みんなの写真を集めていましたが、いつもどこか違和感があるような気がしていました」
「…………」
「アキラくんにも、一度アルバムを見せてもらったんです。みんな小っちゃくて可愛かったな~。食べちゃいたかった!」
「え……」
「というのは殆ど本気ですが、今は置いておいて」
「本気なの……」
「……その中の写真を見て、違和感がもっと広がりました」
「……?」
そう。いつも見ていたのは、本当に小さな頃のみんなの写真。時間軸が少しズレていて、自分が義父に見せられた写真と似てるなと思っていたけど、そこまで確信はなかった。……ううん。一緒にしたくないと、そう思ってた。
けれど、アキラの部屋で見せてもらった。少しずつ、大きくなっていく様子の、みんなの写真。小学校に上がったくらいまでの、そこまでの写真を見て、気が付いた。
「……君の後ろ姿が、写っていたんです」
「……!!」
葵の背中から伝わってきた振動で、彼が驚いたことなんかすぐにわかる。多分そうだろうと思っていた。
でも、これでもう確信へと変わった。絶対に変わったんだ。
「おかしいなって、思いました。何でなんだろうって、そう思いました」
気のせいかも知れない。……ううん。きっと気のせいじゃない。
どうしてなのか、なんてことはわからない。でも、ほんの少しだけ。背中から小さな震えが、伝わってきていた。
「少し前に、みんなに手紙を送ったんです。……あなたのところにも、届きましたか?」
「……ん」
「一緒に同封してた写真。……ありました?」
「……うん」
「……ちゃんと、君が写っていたでしょう?」
「……っ、ん」
微かに届く小さな声が聞こえたと思ったら、彼が体をゆっくりと起こしていく。
震えは治まった。背中から伝わってくるのは、彼の温かい体温と、お日様の温度。
「……あのね? 君がルニちゃんなんじゃないかなって、実はその写真を見てなんとなく気が付いてたの」
「……後ろ姿で?」
「ははっ。そっか。じゃあちゃんと言おう! たくさん写っていた、『君らしき人』と『君』は違う人だって、わかってたんだ」
「……そっか」
そう零れたのはきっと、安堵。
「難易度高いでしょう? あれだけでわかるとかわたしすごい」
「ハナ」
地面についていた手に、そっと彼の手が重なる。
自分よりも大きな手に、今度は自分が安堵する。
「……あったかく、なったでしょ」
「うん。……ほんと、よかった」
上から、やさしく包み込むように握ってくれる。
「……どうして、女の子としてわたしに声を掛けてきてくれたのか、理由までは知らないよ?」
「うん」
「だから、隠してる理由があるんだろうなって思ったの。だから聞かなかった。わたしも、心の中のルニちゃんに、ここで話を聞いてもらってた」
「………………」
「……あの時言ったでしょう? 『言ってないこと、あるでしょう?』って。覚えてる?」
「あったっけ」
「そうやってしらばっくれる……」
「うそうそ。覚えてる。でも、その時違うこと言ったじゃん」
「だって、お兄ちゃんもなんか隠してるっぽかったし。わたしは、君の口からちゃんと聞きたかったんだよ」
「はは。……うん。そっか」
「君がちゃんと写ってる写真、それしかなかったからそれだけ送った。みんなには、みんなが写ってる写真をたくさん送ってあげたんだよ」
「らしいね。どうせ自分のには違うのが入ってるって思ってたから、ちょっと驚いた」
嬉しそうな声で、そう話してくれる。……もう、大丈夫かな?