すべてはあの花のために⑦
いえいえこちらこそうんぬんかんぬん
放課後。
「……理事長。きちんと説明してくれ」
別れ際にぽろっと重要なことを言われたみんなは、揃って理事長室を訪れていた。
「何でよりにもよって百合なんですかー?」
百合ヶ丘高校は、北区にある桜ヶ丘から小山を挟んだ南区にある私立校。桜を超えるほどのお金持ち学校であり、社長や病院の理事、芸能人の令息令嬢がごまんといることで全国的に名を馳せていた。しかも噂では、桜と百合は水面下で争っているとかいないとか。
「何でも、今までの確執をこの代から取りたいと提案してくれたんだよ」
「オレらは別にこのままでいいと思うし、オレらの校風とか見せるつもりも更々ねえ」
「君たちにもいい刺激になるんじゃないかと、私は思うよ?」
「どういうことですか、理事長」
「つ、翼くん。そんな怖い顔しないでよ……」
「そもそもですが、事の発端は向こうからって聞きます。百合が勝手に桜をライバル視してるって。だから水面下での争いも絶えないんでしょう?」
「……確かに、それは未だにあるよ。私も、なんとかできないものかと思うんだけど……」
「別に、今まで何も問題なかったでしょ~? 生徒たちには」
「だったらさ? 別に無理におれらが変えようとか思わなくていいと思うんだけどなー?」
「……まあ実際、生徒たちは大人たちの事情に巻き込まれているようなものだしね」
どうやらみんな、百合との交流を深めるつもりは更々ないらしい。
「オレは、別にいいんじゃないかと思うけど」
しかし、ヒナタがそうぽろっとこぼす。
「は? ……な、何でだよヒナタ」
「だから、大人たちが勝手にしてることって言うんだったら、生徒のオレたちには関係ないでしょってこと」
「確かに。九条の意見は最もだと思います。生徒同士に別に確執もないのだから、交流自体は悪くない提案かと」
「他校と仲が悪いこと自体、治安が悪くなる原因になってしまうかもしれないし。わたしも、できることなら仲良くなれたらいいなと思います」
「……まあ、あたしたちが勝手に仲良くしてるのを、大人たちがどうこう言ってくることもないか」
「主には金の問題だろ? 俺たちがきっかけで、大人たちにも触発したらラッキー。ぐらいに思ってたらいいのか」
「で、でも。桜のいいとことか、取られちゃうかもだし」
「それだったら、わたしたちも向こうのいいところは真似しちゃいましょう」
「仲良くなって、大人たちが桜や百合に、何かするかもしれないよ?」
「それは海棠が何とかするから大丈夫だ。君たちがすることは、治安維持そして学校の行事進行。……君たちが学校のためにできることは何か、よく考えてくれ」
理事長の言葉に、みんなはぐっと押し黙る。
「……理事長は、この提案をのんだ方が学校のためになると思ってるんですね」
「そうだね圭撫くん」
「おれらは、向こうに偏見を持ってるからやっぱりそう言うのってちょっと抵抗があるんですけど……」
「そうだろうそうだろう。でもきっと、向こうの話も聞くとためになると思うよ」
「それはなんでなのみーくん」
「あんまり私も詳しいわけじゃないんだが、……向こうの生徒会は、二人しかいないらしいんだ」