すべてはあの花のために⑦
物音なく開かれたその扉の方へと、みんなは一斉に顔を向けた。そこには、部屋から出てこなかったシントが、疲弊した様子で立ち尽くしていたのだ。
ガタンッと椅子を倒しながら慌てて立ち上がり、みんながそれぞれシントの名を呼ぶが、彼はただ片手を挙げるだけ。疲れた様子のまま早々に席へと着く。
「かえで~……。コ~ヒ~……」
「お前今までやってたんだろ? 自分でしろ」
「なんで自分にしないといけないの。俺が仕えるのは葵ただ一人だけだ」
「え? え……?」
トーマは一人、目ん玉が落ちそうなほどシントの発言にビックリしていた。
コーヒーを淹れてもらったシントはと言うと、ほっと息をつく。
「ちょっと待っててね。もう一息つかせ」
「シン兄、今まで何してた」
「アキ、ちょっと一息つかせてって言っ」
「何がヤバいんだ」
「だから、一杯くらいコーヒー飲ませてくれたっ」
「葵から伝言預かってる」
「早く言ってよっ!!」
「差別だッ」
シントは葵の伝言が聞きたいとばかりに、コーヒーには口をつけずにアキラを急かした。そんな様子に、アキラだけではなくその場の全員が大きくため息をついていたけれど。
「……葵は『それもわたしはちゃんと知っていた』と。そう伝えてくれと言われた」
しかし、それを聞いたシントはただ、眉根を寄せただけだった。
「す、すみません信人さん。お久し振りで、お疲れのところ申し訳ないんですが……」
隣に座ってくれたシントに、トーマはそう断りを入れる。しかし、話を聞こうとしたら、先にシントの方に質問をされた。
「ごめん。先にいいかな。杜真くんはどうしてこっちに? 君は徳島にいたはずでしょ?」
「桜の大学にしたので、こっちへ帰ってきたんです。一番の理由は、葵ちゃんのそばにいたかったからですけど」
一瞬シントの雰囲気が鋭くなった。そしてすぐ、彼は鼻で笑う。
「まあそうだよね。キス魔になるくらいだもんね」
「え」
「勝手に葵にマークつけてくれちゃってさ。まあ俺もつけてやったけど。消毒は思いっきりしてあげた」
「はい!?」
そんなことを言い出すもんだから、男たちによるバトル勃発!
「信人さん。今あたしたちはそれどころじゃないんで、話聞かせてもらえませんか」
しそうになったところ、バンッ! と苛立ちを露わに机が叩かれた。男たちは音を出した主へ、恐る恐る顔を向ける。
「……き、きさチャン……?」
音の主は紅一点。そして、女王様である。