愛しいあなたに紅い花を
薄暗い部屋の中。
さっきまでの張り詰めた空気は、少しだけ緩んでいた。
テレビから流れるバラエティの音が、やけに浮いて聞こえる。
楓はソファの背もたれにだらっと寄りかかり、片足を組みながらスマホをいじっている。
柊はその隣で、無言のままリモコンをいじり、チャンネルを適当に回していた。
蓮は向かいのソファに座り、肘をついて頬杖をつきながら、こちらを観察するように見ている。
そして——
綾藤は、少し離れた一人掛けのソファに深く腰を沈めていた。
全員が、同じ空間にいるのに。
誰も、必要以上に喋らない。
(……これが、帝華)
『……あの』
静かな空気に、そっと声を落とす。
ぴくり、と何人かの視線が動いた。
『何か、お手伝いできること……ありますか?』
一瞬の沈黙。
それから——
「ははっ」
楓が吹き出した。
「何それ。バイトみたい」
『……すみません』
すぐに頭を下げる。
けれど。
こういうとき、お姉ちゃんならきっと——
「……別にいいんじゃね」
低い声が落ちる。
視線を上げると、綾藤がこちらを見ていた。
「やりたきゃ勝手にやれ」
『……はい』
小さく頷く。
テーブルの上に視線を落とすと、空のペットボトルや雑誌が散らばっている。
それを静かにまとめ始めると、
「……マジでやるんだ」
楓が面白そうにこちらを見る。
『……じっとしてるの、苦手で……』
小さく笑って返す。
嘘じゃない。
でも、本当でもない。
ただ——
ここにいていい理由が、欲しいだけ。
「ふーん」
楓はそれ以上何も言わなかったけれど、興味は持たれているのが分かる。
そのとき。
「……なあ」
綾藤の声。
びくり、と手が止まる。
「水瀬」
『……はい』
ゆっくり顔を上げる。
視線が、真っ直ぐぶつかる。
「なんでそこまでしてここにいんの」
核心を突く言葉。
逃げ場はない。
でも——
『……さっき、言いましたよね』
息を整えて、答える。
『知りたい、って』
ほんの少しだけ、笑う。
『それじゃ、ダメですか……?』
数秒の沈黙。
テレビの音だけが、やけに大きく響く。
やがて——
「……は」
綾藤が、小さく笑った。
「めんどくせえな」
吐き捨てるように言う。
けれど。
「……いいよ」
その一言で、空気が変わる。
「その代わり」
視線を外せない。
「中途半端にやめんな」
『はい』
即答だった。
迷いはない。
ここでやめる理由もない。