愛しいあなたに紅い花を
綾藤の視線が、ゆっくりと私をなぞる。
頭の先から、つま先まで。
値踏みするような、冷たい目。
「……水瀬、ね」
低く落ちた声に、びくりと肩が揺れそうになるのを、必死で抑える。
「どこ中」
『……花房中です』
短く答えると、綾藤は「ふーん」とだけ呟いた。
その反応に、ほんの少しだけ安堵する。
───バレて、ない?
「……」
けれど次の瞬間、綾藤の手が私の顎にかかった。
ぐい、と上を向かされる。
「っ……」
強引に視線を合わせられる。
逃げ場なんて、ない。
「目、逸らすな」
静かなのに、逆らえない声。
『……ご、ごめんなさい……』
お姉ちゃんみたいに。
そう思って、少しだけ潤ませた目で見上げる。
その瞬間、綾藤の眉が、わずかに動いた。
「……お前」
心臓が、跳ねる。
「その顔」
やばい。
なにか、気づかれた?
息が詰まる。
けれど、次に続いた言葉は───
「作りすぎだろ」
「は?」と声が出そうになるのを、ギリギリで飲み込んだ。
「無理してんのバレバレ」
ぱっと手を離される。
その反動で、一歩後ろによろけた。
「そういうの、つまんねえからやめろ」
冷たく言い捨てられて、頭が真っ白になる。
───失敗、した?
こんなに早く?
まだ、何も始まってないのに?
「れいくん!ちょっと言い方キツすぎ!」
美柚が割って入る。
「初対面なんだからさ〜!あっちんびっくりしてるじゃん!」
「……別に」
興味なさげに目を逸らした綾藤が、歩き出そうとした、そのとき。
「───でも」
足が止まる。
「嫌いじゃねえよ、そういう必死なやつ」
振り返りもせずに、そう言った。
「帝華に来いよ」
空気が、一瞬で変わる。
「逃げなきゃ、面倒くらいは見てやる」
そう言い残して、綾藤はその場を去った。
「……え、ちょっと待って!?れいくん!?」
美柚の声も届かないまま。
その背中は、あっという間に遠ざかっていく。
残された私は、ただ立ち尽くしていた。
『……なんで……』
震える声が、漏れる。
計画通りじゃない。
全然、違う。
お姉ちゃんみたいにすれば、うまくいくはずだったのに。
なのに。
「……あっちん、大丈夫?」
美柚の声で、我に返る。
けれど、頭の中はぐちゃぐちゃのまま。
───でも。
ひとつだけ、確かなことがある。
「帝華に来い」
その言葉が、頭から離れない。
『……行くに、決まってるじゃん』
小さく呟いたその声は、誰にも聞こえなかった。
だって私は。
復讐するって、決めたんだから。