推しは王子様だけど、恋したのは隣の君でした

第十二話 「凜花と真琴」

 凜花は、学校から帰宅すると自分の部屋に直行した。

 ――遥香は「気にしなくていい」と言ってくれた。

 でも、朝陽はどうしてるだろう。真琴先輩みたいに、ファンから何か変な噂を立てられていないだろうか。

 ベッドに腰かけ、スマホを開く。朝陽にメッセージを送る。

 「次の『桜影』ライブ、行くよね?」

 「行くよ」すぐに返事が返ってきた。

 「ちょっと早めに来て。話したいことがあるの」

 「わかった。『Beat Cellar』が開く時間に行くよ」

   ◇◇

 ライブハウス『Beat Cellar』のカウンター席。

 凜花はグラスの中のコーラを揺らしながら、落ち着かない気持ちを抑えようとしていた。

 「ごめん。待った?」

 不意に聞こえた声に顔を上げると、朝陽が軽く息を弾ませながら近づいてきた。

 「ううん、大丈夫」

 「話したいことがあるって、学園祭のときのことだよね?」

 ――相変わらず察しがいい。

 「君に余計なこと言った子がいたって聞いてる。でも気にしなくていいと思うよ」

 朝陽は、いつもと変わらないさわやかな笑顔を向ける。

 「何かあっても俺が守ったげるし!」

 ちょっと冗談めかした口調に、凜花は思わず吹き出しそうになる。

 「でも、朝陽は困ってないの? 私、迷惑かけてない?」

 朝陽は一瞬きょとんとしたあと、ふっと笑った。

 「なにが? 全然大丈夫だけど」

 軽く言い切るその姿に、胸の奥が少しだけざわつく。

 本当だろうか。朝陽の人気ぶりを考えると、何かはありそうな気がする。けれど、凜花はそれ以上追及しなかった。

 ライブの開演時間が近づき、二人はカウンターを降りて、フロアへと向かった。

   ◇◇

 「桜影」のステージが始まる。

 「真琴せんぱ~い!」

 いつものように声援を送る。だが、今までとは違う感覚だった。

 以前の凜花は、真琴先輩の一挙手一投足に心を乱され、彼女が視線を向けるたびに高鳴る気持ちを抑えきれなかった。でも、今日は違った。

 ただ、目の前のステージを、純粋に楽しんでいた。

 真琴先輩は、やっぱりかっこいい。だけどそれは、恋のような感覚ではなく、一人のアーティストとして尊敬する気持ちだった。

 ――私は、ちゃんと前を向けている。

 ステージに響く音に身を委ねながら、凜花はそう実感した。

   ◇◇

 ライブが終わると、凜花は静かに息をついた。

 余韻が胸の奥に広がる。

 言葉にはできないけれど、今までとは違う気持ちで「桜影」の音楽を聴けたことを、凜花は確かに感じていた。

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